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オリジナルと二次創作を揃えております。拙い文章ですがよろしく(^_^)!
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探偵と迷い |
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7
「ふーっ」
──……今日も、発見できず、か。
勝彦が逃げ出してから、三日が経っていた。
一〇月五日、金曜日、いや、既に日付も変わっている。
週末である。
一昨日。勝彦の両親に、悦子が立ち会いの下で事の次第を説明した。
勝彦の両親は、当然、警察に捜索願いを出した。
しかし、現在の情報では、雲を掴むような話しである。
大きな動きは期待出来ないであろうと……。
そんな思いを抱えつつ、誠は事務所の椅子に座り、公一が書き残した報告書に目を通す。
誠は、勝彦の捜索以外に、タルトセルの情報を、何人かの情報屋から聞き出そうとしている。
だが、思ったほどの情報はない。
今、何が行われているのか。
今、どういった状態にあるのか。
まったく、情報が入ってこない。
公一の報告書からも、新しい情報はなかった。
勝彦の目撃情報が少ないのである。
何故か?
日中の移動を行っていない。
雑多な中で移動している。
等々、いろいろ思い浮かぶが、駅での目撃情報がない。
町田市小川近辺からは出ていない。
そう思わざる終えなかった。
──……コーヒーでも飲むか。
疲れを滲ませた緩慢な動きで、事務所にしている部屋を出る。
と、玄関のドアが開く……。
「お疲れ様です」
まだ起きていたのかと、訝しみながら、片手を挙げひとまずキッチンへと向かう。
上がってきた由紀子が続き。
「コーヒーなら、私が入れましょうか?」
「……あ、あぁ」
食卓に座っていると、次第に、由紀子の淹れるコーヒーの香りが、広がって行く。
カップに移され、誠の前に出される。
「……芹沢さん」
「はい?」
「こんな時間まで、付き合う必要はないんですよ?」
「……」
「……。
このままでは、不味いんですよ」
「小川君が、ですか?」
「彼の安全だけじゃない。
裏に潜んでいる、事件と言ってもいい事を、暴くこと、ですか」
誠の質問に対する由紀子の回答がないのを、彼女なりの覚悟と受け取った誠だが、一息入れたことが、焦りにも似た感覚で、誠の心を苛立たせる。
店長が、勝彦の自宅に現れたのだ。
それなりの準備もしていただろう事は、誠を襲った車の出来事が全てを物語り、限りなく真意を証明したことになる。
そして今、勝彦が何処で、どうしているのか……。
一分、一秒とて、無駄には出来ない。
「……しかし……」
ここまで水面下の動きが掴めないとは、思っても見なかった。
裏の深い部分の事情を知り尽くしている情報源が必要になってくる。
誠の情報源には、皆無に近かった。
尚更、焦るのかも知れない。
「……古屋さん。
情報が必要であれば、頼める人が一人いるじゃありませんか。
私を預けた人が……」
誠の心情を察してのことか。
いや、誠と公一が、しゃにむに情報を集めているのだ、気が付かない筈はなかった。
その問いとも、助言とも取れる由紀子の言葉に、誠は何も応えなかった。
確かに、今の状況を打破出来る可能性は、高かった。
だが、同業者として、やって良いことなのか?
恥ずべき行為では無かろうか、と言う想いがある。
「古屋さん。
よろしいのですか?
小川勝彦、と言う若者の未来が、掛かっているのではないですか?」
由紀子の優しく厳しい叱咤に、誠は愕然とした。
そう、思い悩んでいてもしょうがないこともあるのだ。
「そうですね。
若者の未来のために、大人がすることは一つだけだ。
……芹沢さん、ありがとう」
誠は、心を決めたようである。
*
ドアが開く度に、カウベルの軽やかな音が響く。
「いらっしゃいませ」
それ程広くない店内に響く、マスターの声。
窓際の一番奥、テーブル席に一人の男が座っていた。
誠である。
新宿西口界隈、西の外れにある喫茶キルッズにいた。
まだ、開店したばかりで客は殆どいない。
土曜日の新宿で、早い時間に開けたとしても、客はいないのではないか、そう思う誠……。
誠が、何故ここにいるのか。
由紀子と深夜に交わした会話、情報源がここにある。
いや、正確には、ここに来れば会うことが出来ると、聞いているだけなのだ。
そう、マスターに一言告げれば……。
その、誰かを待っている誠が、徐に秋物の上っ張りの内ポケットから手帳を取り出す。
──……何か漏れがなかったか、再確認でもしておくか。
小一時間ほどは経ったであろうか。
テーブルの上には、マスターが奢ると置いていった、湯気が途絶えて久しいコーヒーが半分ほど入ったカップ、パン屑がそこかしこに残った皿がある。
手帳をめくりながら思案していると、何度となく響いている、カウベルの音が耳に入る。
ふと、見回した先。
カウンター前に立っている男に、見覚えがあった。
その男は、マスターに促され、誠を確認したのか近付いて来る。
細身の男である。
無造作ではあるが、それが似合っている頭髪。
緊張のためか、真一文字に結んだ薄い唇。
「お待たせしてすいません。
あなたからの用件であれば、何でも受けますよ」
誠の正面に座りながらそう切り出す男。
それほど親しい間柄ではないが、男は気にすることもなく喋る。
元々の性格であるのかも知れない。
そんな男に釣られたように、誠の気も楽になって行く。
「依頼内容が、告げられないのはお分かりと思います」
「それは重々」
「ですので、助けていただきたい部分だけ、お話しします。
タルトセルというビデオレンタルショップが、町田にあるのですが……」
誠がタルトセルについて説明する間、男は黙って聞いていた。
誠が一通り話し終えると……。
「……内容は分かりました。
そうですねぇ。
三日以上掛かるでしょうが、必ず情報を仕入れますよ」
「よろしくお願いします」
──三日、か……。
掛かりすぎではないのかと思うが、焦っているときこそ、安易な判断は禁物であると言い聞かせる。
時間も重要であるが、何より、今は情報が何としても欲しかった。
そんな思いを抱えつつ、誠は店を後にする。
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縦書きで執筆しているため、漢数字を使用しておりますことご理解ください。
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下記、名称をクリックすると詳細を展開します。
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おがわ かつひこ |
小川 勝彦
西暦1980年 9月10日生まれ。身長/体重:178㎝/60㎏
学年:社会学部 3回生
小川勝也家長男として生まれる。
本質的には優しいのだが、その反発として、ムラが多く、喜怒哀楽を激しく表現しすぎる。その為、周りの人を困らせることが多々ある。
嫌いなものは肉類。好物は、焼き魚。
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ささき えつこ |
佐々木 悦子
西暦1980年 8月 8日生まれ。身長/体重:160㎝/45㎏/スリーサイズは未定
学年:社会学部 3回生
佐々木玲児家次女として生まれる。
気性の激しい、とまではいかない荒さがある反面、優しさもある。また、いわるゆ面倒見の良いところを持っている。
嫌いなものは焼き魚関係、だが、好物は、刺身。
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ふるや まこと |
古屋 誠
西暦1966年 9月 6日生まれ。身長/体重:175㎝/65㎏
職業:私立探偵。古屋探偵事務所所長兼探偵長
古屋本家次男として生まれる。
それ故か、何事にもマイペースでこなしていく、喜怒哀楽がないわけではないが、怒りについては本来有する性格のためか、激怒したことは今までにない。
食べ物で好き嫌いはないが、特に好物なのは、カリカリベーコンの目玉焼きである。
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せりざわ ゆきこ |
芹沢 由紀子
西暦1970年 7月19日生まれ。身長/体重:168㎝/50㎏/スリーサイズ未定
職業:私立探偵。古屋探偵事務所事務
芹沢家長女として生まれる。
おっとりした方であるが、活発さも持っている。ごく普通の女性である。
細かいことに気が付くことが多い。
嫌いなものは納豆である。
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うめだ こういち |
梅田 公一
西暦1971年 7月 1日生まれ。身長/体重:170㎝/66㎏
職業:私立探偵。古屋探偵事務所探偵
梅田家次男として生まれる。
ありがちな次男の性格である、自分勝手さが時折顔をのぞかせる。が、新米の頃に、自分勝手な性格が前面に出たために、仕事は失敗、当時の探偵長を始め所長にまで迷惑をかけた経緯があり、その性格が出ていないか自己分析した上で行動できるように訓練をし、今では、殆どのところを制御している。
好き嫌いはないものの、やはり一番の好物は、母の手料理である。が、難点は、ビール好きであること、ビールであれば底なしのように飲む。
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「タルトセル」 店長
職業:「タルトセル」 店長
店長として表に出ることが多々あるため、表裏を使い分けできる人物のようである。
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喫茶キルッズ マスター
職業:喫茶店キルッズマスター
名前、年齢、風貌など一切不明。
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細身の男
職業:探偵(らしい?)
名前、年齢は不明だが、細身の体格である。
芹沢由紀子が指名した人物であり、古屋誠に芹沢由紀子を預けたという借りがあるようだ。
また、その筋の情報通である。
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ふるやたんていじむしょ |
古屋探偵事務所
事務所は、東京都町田市忠生の外れ、多摩市に近い方にある。
事務員と探偵と探偵長の3人だけの事務所である。そう大掛かりの必要もなく、店舗使用可のマンション形式のアパートである。
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喫茶キルッズ
所在地は、新宿区。
いわゆる新宿駅の西口ビル街の一角にあり、雑居ビルにあるこぢんまりした喫茶店。
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町田市
東京都の多摩南部に位置付けられている南にせり出した一体で、神奈川県に隣接した市。
作品年代においても、駅周辺はかなり発展している。
しかし、駅を離れると田園風景が広がっている。
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Copyright(C) 2002,2009 木眞井啓明