K_KOMAI'S HOUSEのバナー トップのイメージ 矢のイメージ Ranking 矢のイメージ メール
Soly japanese only.
書き物の部屋のイメージ オリジナルと二次創作を揃えております。拙い文章ですがよろしく(^_^)!
no-imageのバナー Spellbound


     4


 冴子から受け取った、幸治の手帳。
 通報した際に渡し損ねた訳だが、それどころではなかったのも事実……。
 致し方がないとは言え、結果、役立つことになったのは事実である。
 その手帳も、成城警察の幸治の同僚に送付し、既に手元にはない。
 幸治が殉職直前まで行っていた捜査……。
 それは、海道グループの子会社に、不正があったのではないか。
 それと、関係性が考慮された死体について、その全ての死因を、警察では自殺と断定しているが、殺された可能性もあるのではないか、と幸治は考えていたようである。
 更に、所轄内の分に納得のいかない点があったため、独自に捜査していた。
 調べていく内に、同グループの運輸会社で、同業他社への圧力があったような点が見つかっていた。
 その後を引き継ぎ、正史達は、その圧力の事実を見つけた。
 その事実を、確固たるものにすべく、正史達は行動を起こした。

 冴子が亡くなってから四〇日目。
 世田谷区八幡山。
 環状八号線から少々入ったところ。
 とあるビルの脇に人影が一つ。
 真一である。
 見上ているビルが、海道グループ本社である。
「?
 い、何時入ってきた?」
 ドアの前に一人の男が立っていた。
 ドアに一番近い男が気が付き声をかける。
「え? だ、誰だ?」
 その男は、しきりに目をこする。
 そう、入ってきた男の顔が、まるで目が霞んでいる時のようであったから。
「どうした」
「客が来たのに気が付かなくて」
「おい。何処にいる?」
 ”えっ?”っと言う表情と共に、ドアの方に視線を移し、その男は動作を止める。
「しっかりしろ……。イッ!」
 今度は、注意した男が驚愕することとなる。
 戻ろうと振り返った目の前に、見知った男が立っていたからである。
「な、な、中尾の旦那」
 ホッとしたのも束の間。
「そ、そ、そんな、ば、ば……」
 その場にいた全員が、一斉に立ち上がり、男どもの奇声が響く。
 その奇声の所為であろう、壊さんばかりの勢いで一番奥のドアが開かれる。
「おめぇら。何騒いでいやが……」
 海道組社長、上岡辰夫である。
 その上岡も、そのまま固まる。
 室内で動くものは誰もいなかった。
 死んだはずの幸治が、突如現れ悠然と立っていたからである。
「よう。久し振りだなぁ」
 少々くぐもったような声。
 それでいて、内容は明確に聞こえている。
「俺たちだけだと、寂しくてな。
 お前達を迎えに来たよ」
 金縛りにでも遭っているかのように、誰一人声を発することが出来ないでいた。
「……そ……」
 上岡は、何かを喋ろうとするが、どうしても言葉が出てこない。
「何だ? しばらく会わない内に、言葉を忘れたか?」
「……てめぇ。誰だ!」
「おいおい、俺を忘れたのか? 中尾幸治だ。警視庁成城警察署のな」
 各所で悲鳴とも、奇声とも付かない声が上がる。
 スッ、と、滑るように動き出す幸治。
 最後に出てきた男、上岡の前で動きを止め。
「久し振りだな、上岡社長。
 どうだい、こっちに来ないか?」
 上岡の顎からしずくがしたたる。
 冷や汗を掻いているようである。
「どうした? 凄い汗じゃないか。何処か具合でも悪いのか?」
「……し、しん、じねぇ、ぞ」
「何をだ?
 具合が悪いなら、早くこっちへ来い」
 何かを喋ろうとするが、恐怖が勝ちすぎているのか、上岡はまともに喋ることが出来ないでいた。
「全くだらしのない奴だ、これが海道組の社長とはな」
「……な、何だと……」
 幸治は口元に笑みを浮かべ、何かを期待しているようである。
「て、てめぇは、中尾、じゃないな?」
「何を言っている、本人だよ」
 と、突然、幸治は笑い声を上げ、現れた時のようにスッと出入り口に移動する。
「邪魔したな」
 そう言い捨てながら部屋を出て行く。
 しばしの静寂。
 社長であり、それなりの修羅場も潜ったであろう上岡ですら、声を発することが出来ない程の衝撃であったということ。
「……お」
 上岡が声を絞り出そうとしている。
 その声に、近くにいた者達が上岡に向く。
「……お、おい。
 ……追い、掛けねぇか」
 近くにいた者達の反応はない。
 その反応のなさに我に返ったのか。
「……て、てめぇら! 追い掛けねぇか!」
 その怒鳴り声に、殆どの者達が我に返り、追っ手を差し向ける。

 その頃、表にいる真一は……。
「あ〜、これが海道組か? やる気無くすぜ」
 正面玄関前でぼやきながら、ひたすら待っていた。
 カツン、カツン。
──やっとお出ましか。待つのも辛いぜ。
「あっ! や、やろう、まだいやがったか!」
 追ってきたのは、割と若かった。
 所謂、鉄砲玉と呼ばれる者である。
 真一は、ビルの脇へと走り去る。
 追っ手が回り込もうとしたとき、一台の車が飛び出してくる。
 マツダ・ファミリア、3ドアハッチバック、GT。
「おわっ! な、舐めたまねを!」
 驚いて後ずさるが。
 直ぐに気を取り直し、そのまま裏手へ走る。
 真一は時間がかかると踏んでいたが、どうやら裏手にも人が回っていたようである。
「やべぇ。
 手回しが良いじゃないか」
 甲高いスキル音に慌て、急発進で走り出す。

 真一は、さほど渋滞のない甲州街道を、新宿方面へ走っていた。
「よしよし、付いてきてるな」
 真一は時折、後方を確認していた。
 一方の追っ手は。
「やろう、何処まで行く気だ。
 絶対食らいついてやる」
 すさまじいまでの気迫。
 組に殴り込まれた所為もあるのだろうが、社長の怒りによるものもあるのであろう。
 真一が車線変更をする度、後方で、クラクションが鳴り響く。
 あわや大惨事、となってもおかしくないカーチェイスを繰り広げ続ける。
 カーチェイスの末、真一は新宿西口地下駐車場に車を入れる。
 後に続いた追っ手も、さほど離れていない場所に止め、慌てながら真一を追う。
 地上へと向かう階段で、真一が足を止め後ろを向く。
「! あ、く、こ、この!
 中尾のやろう、舐めやがって!」
 そう叫ぶや走る速度を上げる。
 真一のその行為が、追っ手には威嚇と感じたのだろう、その形相からもそれが伺える。
 真一が走る。
 追っ手も走る。
 新宿西口のビル街の外れの路地。
 真一は一軒の店に、追っ手を確認しつつ入っていく。
 追っ手は、真一の行為に、怒りを増したのだろう、躊躇するとなくその店に入っていく。
「いらっしゃいませ」
 追っ手は、店内を見回す。
「お待ち合わせですか?」
「おい。
 今入った野郎は……、客は何処だ!」
「いえ、お客様だけですが?」
「嘘を言うな! 俺はそいつを追ってきたんだ。確かに入るのも見た」
 その店員は、本当に困ったように、客は、誰も入ってきていないと告げ続ける。
 追っ手は、店員の物言いに、落ち着き払った態度に、苛立ちが募ってきていた。
「もう一度聞く。先に入った野郎は何処だ!」
「ですから、お客様は、あなただけだと申し上げておりますが」
「く、どけ! 奥にでもかくまっているんだろう」
「お、お客様、困ります。そちらは……」
 追っ手は、その物言いに、的を射たと思ったのか、口元に笑みを浮かべながら、”Office”と書かれた扉を開け入っていく。
「おいおい、ここは店の事務所だぜ、扉に書いてあったろう?」
 追っ手は、中にいた男を一睨みする。
「おい、ここに逃げ込んできた男がいたろう」
 事務所にいた男は、首を横に振った。
「嘘をつけ! 出口は何処だ!」
 追っ手は、事務所内に隠し扉でもないか探り始めた。
「見ての通り、あんたが入ってきたところだけだが?」
「どこに匿って……」
 追っ手は、言葉を最後まで喋ることは出来なかった。
 事務所での遣り取りを余所に、店では……。
 チリン。
「いらっしゃいませ」

下記、名称をクリックすると詳細を展開します。
かみおか たつお
上岡 辰夫
西暦1949年02月15日生まれ。身長/体重:168.8㎝/58㎏
職業:「海道グループ」海道組 社長

 狡賢く、悪知恵が働く。
 他人に対する優しさはなく、目上であろうと、上役であろうとライバルと認識するほどである。それ故の早い出世である。
なかお こうじ
中尾 幸治
西暦1965年10月12日生まれ。身長/体重:170㎝/60㎏
職業:警視庁成城警察署刑事課

 中尾孝治家、長男として生まれる。
 何者かによって、恋人の小暮冴子共々殺害されてしまう。
かみもと しんいち
神本 真一
西暦1969年06月18日生まれ。身長/体重:167.2㎝/58㎏
職業:「喫茶キルッズ」店員

 勝ち気。故に、周辺でいつも諍いが絶えない。
 全く考えなしに行動はしていないが、周囲にはそうは映っていない。損な性格。
こぐれ まさし
小暮 正史
西暦1969年09月06日生まれ。身長/体重:169㎝/55㎏
職業:私立探偵。岩井探偵事務所探偵

 小暮正彦家長男として生まれる。
 本来は温厚であり、何者に対しても優しく接することが出来る。
こぐれ さえこ
小暮 冴子
西暦1967年09月16日生まれ。身長/体重:162㎝/45㎏/スリーサイズ未定
職業:スーパーの準社員

 小暮正彦家長女として生まれる。
 何者かによって、恋人の中尾幸治共々殺害されてしまう。
かいどうぐみ
海道組
 世田谷区の八幡山、環状八号線にほど近い場所にある。
 建築屋として業種の転換をした。
かいどうぐるーぷ
海道グループ
 本社は、世田谷区の八幡山、環状八号線にほど近い場所にある。
 グループとしてローン会社、運輸の子会社を有するほどに急成長を遂げている。
神本真一の愛車
 マツダ・ファミリア 3ドア・ハッチバック GT
 6世代目の前期型を中古で購入し、ノーマルのまま使用している。



ページトップ