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今より、ずっと未来……。
ロボットに仕事の殆どを明け渡し、人類は、自らの手で思考までおも数値化することが出来るようになった、未来……。
また、人、本来が持つ、夢、と称する糧をなくしかけた未来……。
“いつも夢見る場所。夢をお貸しします”のキャッチフレーズでお馴染みのドリームバンクに、一人の男が入店する。
「いらっしゃいませ、ドリームバンクにようこそ」
男の頭上に、入店の声が響く。
後を追うように、もう一人、女が入店する。
「いらっしゃいませ、ドリームバンクにようこそ」
男は、“空き”の表示がある、〇七番ブースの前に立つ。
「お入り下さい」
頭上の指向性スピーカーから声が掛かる。
目の前のドアが、スッとスライドして開く。
男は、唇をかみしめ、表情を引き締め、一歩を踏み出し入って行く。
一足遅れて入店した女も来る。
しかし、全てのブースが塞がっており待つため、待合いブースに入る。
*
男が入ったブースは、モニター、キーボード、リラックス・シートがあるだけの、薄暗い部屋である。
「どのような夢をお望みですか?」
シートの耳の辺りから声が聞こえる。
「……先ずは、希望に満ちた夢を……」
「畏まりました。シートを倒します」
男は目を閉じる。
数秒後、夢の中へ……。
*
「お待たせしました、〇四番ブースにお進み下さい」
待合いブース。
先ほどの女の頭上から指示が出る。
—四番……。
表情を曇らせながら、待合いブースを出て行く。
先ほどの男と同じように、ブース前に立ち止まる。
「お入り下さい」
表情を曇らせたまま、重い足取りで中へと入り、リラックス・シートに座る。
「どのような夢をお望みですか?」
何も聞こえていないのか、女は、返答しない。
「どのような夢をお望みですか?」
音量を上げた声に、今度は反応する。
「……た、楽しい夢を……」
「……畏まりました。何とか選りすぐりましょう。シートを倒します」
数秒後、夢の中へ……。
*
「如何でしたか?」
「あぁ……。ありがとう。何か希望が湧いて来たよ」
「それは、何よりです。では、本題に入りましょう」
シートが起きあがる。
目の前のモニターに、画面が表示される。
男。
夢乃外夫。
三〇歳
無職。
キーボードで入力を進め、職種欄に、“planner”と入力した。
すると、エラーが表示される。
無職のplannerは、あり得ないと言うことである。
“定職時の職業”を頭に追加する。
「登録を完了しました。本題の夢はどのような夢をお望みですか?」
「起業成功者」
「畏まりました、準備が整うまでティールームでお待ち下さい。出口はあちらです」
入り口とは別の面のドアがスライドして開く。
夢乃は、出口へ意気揚々と向かう。
*
「如何でしたか?」
女が入った〇四番ブース。
「えぇ、まぁ、気分は良くなってきました……」
「それでも、まだお元気がないように、伺えますが?」
「そう……。まだ、やる気が起きないようですわ」
「では、別の夢をお試しになりますか?」
「え、いえ。いいわ」
「そうですか。では、本題に入りましょう」
シートが起きあがり、モニターに画面が表示される。
女。
夢賀美麗。
三二歳。
無職。
と入力し、職種欄に“保母”と入力した。
やはり、エラーが表示される。
まだ、沈んだままの夢賀には、失敗、を連想させる言葉、文字が受け付けられなかった。
体が震えだし、目を見開いてモニターを見詰めている。
「お客様? お客様?」
反応がないと見たオペレーターは、シートを倒して強制睡眠に移行させる。
シートのどこからか、仄かにラベンダーの香りが漂い、波の音が静かに聞こえ始める。
体の震えが収まり始め、落ち着いてきたようだ。
「お客様、別の夢をご覧下さい」
目を閉じるのとほぼ同時に夢が始まる。
*
夢乃はティールームで、アールグレイティーとレアチーズケーキを、優雅な気分で食していた。
ティールームの入り口に、足下がふらついた女が入って来た。
夢賀である。
「あ、危ない」
手を差し伸べる夢乃。
その手に、腕に掴まる夢賀。
「どうしました? ご気分でも悪いのでは?」
何故か、丁寧な口調になる夢乃。
既に、夢の影響が出ているらしい。
ここの売りの一つである。
先ほど見た夢効果である。いや、追体験と言った方が良いかも知れない。
来店する殆どの客が、この追体験で気力を取り戻すと言われている。
「いえ、大丈夫です」
夢賀は突っぱねるが、足下がおぼつかない。
「どうぞ、こちらにお座りになって下さい」
夢乃は丁重に、椅子に座らせる。
「すみません。やはり、まずかったのでしょうね……。……す、すいません。初対面の方だと言うのに……」
独り言が、口を突いて出たようだ。
「いえ、構いませんよ。まだ待ち時間があるようですから」
「あら、助けて頂いたのに、名乗ってませんでしたね。私、夢賀美麗と申します」
「ご丁寧に。私は、夢乃外夫と申します」
二人はその後、世間話をしながら、次第に自分の境遇についても語り始める。
この場所ならではと言える。
同じ境遇とは言え、二人は次第に、共感をもって会話するようになって行く。
「お待ちの夢乃様、夢乃様。準備が整いましたので、一七番ブースへお越しください」
待ちかねた放送が入る。
「呼び出されたようです」
「お先にどうぞ、五年後に、またここでお会いしましょう。約束ですよ」
「分かっています。それではお先に……」
夢乃は席を立って行く。
一人残された夢賀は……。
*
五年後。
「いらっしゃいませ、ドリームバンクにようこそ}
男の頭上に、入店の声が響く。
そのしばらく後、一台の車が到着する。
数人の男に付き添われ、女がドリームバンクに入る。
*
男は、二七と表示されているブースの前に立つ。
「お入り下さい」
何のためらいもなく入室する。
部屋には、男が一人と、リラックス・シートがあった。
入室した男がシートに横になる。
「お名前は?」
「夢乃外夫」
質問した男が、端末に入力しているようである。
「夢乃様のカテゴリーは、“成功”。返夢は、五夢ですね」
「はい」
「では。これより、等価選別を行いますので、しばらくお休み下さい」
ほんの数分で、等価選別が終わり、夢乃は起こされる。
「夢乃様。こちらに、いくつかグループ選別させて頂きました。どの夢を返夢なさいますか?」
「……。これでお願いします」
「畏まりました。尚、返夢された夢は、廃夢させて頂きます。では、もう一度、お休み下さい」
更に数分後、夢乃がシートから起きあがる。
「夢乃様。これで、今回の借夢は終了となります。またのご利用をお待ちしております」
「ありがとうございました」
ブースを出た夢乃は、ティールームに足を向ける。
*
数人の男に付き添われた女は……。
「お、お願いします。も、もう少し、待って下さい」
「申し訳ありませんが、規則ですので、ご了承下さい」
シートに寝かされた女性の声が小さくなる。
強制睡眠させられたようである。
「……。等価に値する夢は、なさそうね……。ん?」
数分後、女は起こされる。
「……。あ。あ。」
「目覚められましたか。お客様からは、等価で頂ける夢がこれしかありませんので、強制的に返夢させて頂きます」
「そ、それだけは……」
再び、強制睡眠させられる……。
*
夢乃は、ティールームで寛いでいた。
時折、入り口に視線を向けていた。
誰かを待っているかのようである。
〜完〜
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下記、名称をクリックすると詳細を展開します。
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ゆめの そとお |
夢乃外夫
穏やかな性格。故に、訪れたのかもしれない。
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ゆめが みれい |
夢賀美麗
元々の性格は見えきれないが、臆病であることがわかる。
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しゃくむ |
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へんむ |
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はいむ |
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他のSSと比べると、内に秘めた暗さのある話です。
別に、この時代にマッチさせたつもりはないんですが、マッチしすぎてますね。
エンディングは2〜3パターン考えましたが、明るめのエンディングを選んでみました(どっかにありそうな気もしますが……)。
いかがでしたか?
もし、よろしければ、感想など頂けると嬉しいです。
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