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Soly japanese only.
書き物の部屋のイメージ オリジナルと二次創作を揃えております。拙い文章ですがよろしく(^_^)!
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 暗闇の中、何処かでどさっと音がした。いや、ばたっとも聞こえる。どうやら、何かが落ちたか倒れたようである。
 その音がした後は、再び静寂がその場を包んだ。
「……ん」
 数十分か、小一時間かが経った頃、人が上げたような声が一つ聞こえた。この暗闇の中に人がいるとでも言うのであろうか。
「……ん」
 その数分後。再び声が一つ聞こえた。どうもその声は、人が目覚める際に上げる唸りのようにも聞こえる。やはり、誰ともしれない人物がいるようである。だとすると先程の音は、この者が倒れでもした時のものだったのかもしれない。
「……ここ……は……。何も見えないわね」
 声と共に、何かを引き摺るような、布地が擦れているような音も聞こえてくる。
 俯せにでもなっていたのであろうその人物が、口をついて出たしまった呟きを漏らしながら、手でもついて上体を起こしたようである。
──……どうなっているのかしら……。確か……。……そう。思い出したわ。
 混乱する記憶を整理し、何かに思い当たったその人物は……。
「楓! ……!」
 思わず大声で叫んでしまった人物は、慌てて口を手で押さえたようである。ここが何処であるのか分からない以上、自身の居場所を知らせることに繋がる言動はするべきではない、との判断が瞬間になされたようである。
──参ったわね……。とりあえず音の類は聞こえない……。やってしまったことは仕方がないわね。
 目覚めたら暗闇の中にいたのである。動揺するなと言うのが無理というものである。然るに、焦ったとしても咎められる者などいないであろう。
──……やはり駄目ね。殆ど何も見えないわ。いいえ、落ち着きなさい。目を慣れさせれば……。
 上体を起こした人物の動きが止まった。気持ちを落ち着かせつつ、この暗がりに目を慣れさせようとしている。目を慣れさせることで、夜行性ではない人であっても、ある程度までの暗さであれば見ることは可能である。
──……困ったわね。少しでも明かりがあれば、もう少し見やすいのだけれど。明かりの類の持ち合わせはないわね。
「……あら? ど、どう言うことなの? 僅かに明るくなったわ」
 思わず口走ってしまったようであるが、願ったとたんに明るくなったとなれば驚かずにはいられないであろう。しかも、願ったとおりの明るさであれば尚更である。
 これ以上の明るさを願わなかったのは、この人物の思想、あるいは考え方が垣間見えて面白い。つまりは、現在の事態が理解できていない以上、大げさな行動は控えると言えば分かるであろうか。所謂、慎重に事を進めるという奴で、穿った見方をすれば臆病者と言うことになる。
「楓。どこ」
 薄明かりの中、先程より小さい声で楓を呼ぶ人物は、座ったままの姿勢で辺りを見回しているようである。暗くとも、時折かすかに聞こえる布地が擦れる音から察することが出来る。
──……返事がないわね。気絶……いえ、そのまま寝ているのかもしれないわね、あの子の事だから……。
 そう考えながら薄笑いが零れている。どうやら少しは落ち着いたようである。
──……そうね。このまま座っていても埒があかないわね。
 布が僅かに擦れる音と靴が擦れる音がした。楓を呼んだ人物が立ち上がったようである。探すには立った方が都合が良いとは言え、この場所の事は分かっていないのである、立つことによる動きを察知される危険はある。
 ぐるりと周囲を見回す人物のその表情は、薄明かりのため判然とはしないものの、楓を心配しているように見受けられる。
 そして、真後ろを向いた時、はっと声を上げて動いた。
「楓!」
 発見した嬉しさからなのであろう、慎重さもすっかり忘れて叫んでいた。
 カシャン。ペキ。
 移動する中で何かを蹴飛ばした、あるいは踏みつけたようであるが、お構いなしに歩を進め、楓の傍で跪いて両肩を掴んで揺する。だがその揺さぶりに反応が返ってこない。次第に揺すり方が強くなった。それでも反応が返ってこない。
──……楓。何てことなの……。こんな……こんなことが……。
 かなり狼狽しているこの人物は、楓に声を掛けては揺するを繰り返していた。それでも、なかなか目を開ける気配がない楓である。
「……あら。いけないわね。落ち着かなければ……」
 何度目であろうか。口をついて出た言葉……。落ち着いたように見えていたのだが、探していた人物を発見したとなれば平常心を保つなど出来よう筈もない。更に言えば、何処ともしれない場所にいるのだ、致し方がないであろう。
「そ、そうだわ」
 そう呟いた人物は何かに思い当たったようで、己の手を楓の鼻の近くに翳す。その後に腕を取って手首に指を当てていた。意識がないため、呼吸と脈で生存の確認を取ったと言うことであろう。
「ふぅ。ひとまず呼吸も脈もあるわ。……良かった。それにしても、寝るにはちょっと寒いかしら?」
 楓が生きていることを確認したことで、気持ちが落ち着いたようである。そして、その人物がふとした感想を口にした瞬間……。
「……まただわ。寒さが少し和らいだようね。どう言うことかしら?」
 徐に、右手を開いて額を覆うように添えた。その目は、何かを思案しているようであるのだが、ややきつく睨んでいるようにも見えた。この場だけを見た者がいたならば恐怖に怯えたことであろう。
「……ん……」
 再び人が上げたような声がかすかに聞こえてきた。
「あら。やっとお目覚めね」
 どうやら、楓が目を覚まそうとしているようである。その声を聞いた人物は、ここで意識を回復してから二度目の笑みを漏らした。その笑みには、先程より安心感が見え隠れしている。
「……ん、……ん?」
「楓」
「……う〜ん、もうちょっと……」
「まったく。しょうのない子ね。起きなさい」
 楓の傍らに座っている人物は、恰も自分の子供を起こしに掛かっているような表情で接している。その声も母親と見まがう優しさに満ちている。
「……ん。ん〜。ん? 薫?」
「そうよ。目覚めてくれて良かったわ」
「よっ。う〜ん。……どれくらい寝てた?」
 楓はそう呟きながら上体を起こした。
「分からないわ。でも、良かった」
 そう言った薫は、楓の両手を包むように握った。すると……。
 カチッ。
 小さいがスイッチが入ったような音が聞こえた。
「ここ……は……ど……」
 楓が何か質問を始めた所で声が次第に消えて行った。その状態に慌てた薫は……。
「楓? どうしたの? 楓!」
 突然のことに驚いた薫だが、握ったままの手は離さなかった。その一方で、楓が自身を支えている全ての力を手放したかのようにふらりと後ろに倒れかかる。
「駄目よ! 痛っ」
 薫はそう叫びながら、倒れる楓の後頭部との間に手を差し込めたようである。ぶつかる衝撃全てを緩和できなかったであろうが、幾分かは薫の手の甲で引き受けられたようである。しかし、咄嗟のこととは言えよくこの行動が取れたものである。
「楓、返ってきなさい!」
 慌てている薫は、楓の頬を叩いて意識を戻そうとする。しかし、楓の意識は返ってこない。慌てながらも再び呼吸と脈を取った。
──呼吸も脈もかなり浅いようね。このままでは……。
 焦りが薫の明晰な頭脳をかき乱す。何をどうしたらよいのか、どうするべきなのかに迷いが生まれた。
「楓。どうしたら良いの……」
 項垂れ、途方に暮れる薫。だが、一刻の猶予がないと思われる事態である。
──……落ち着きなさい。落ち着きなさい。……楓の命に関わることなのよ。
 何度も自分に言い聞かせ、混乱したままの頭で考え続ける薫……。
──……そうだわ。基本に立ち返りましょう。あっ、いえ、違うわね。呼吸も脈もあるのだから……。
 慌て焦る薫は、どうやら心臓マッサージと人工呼吸でも行おうと考えたようである。だが、そのどちらも今の楓は自力で行っている。だとすれば何をすべきなのか。医療知識までは持ち合わせていないのであろう薫にとっては、措置のしようがないと言わざる終えないようである。
 楓の傍らに両手をついて、項垂れた格好となって無力であることを噛みしめる事しか出来なかった。
「……ごめんなさい。今の私には何も出来そうにないわね」
 床ずれの音をさせ、徐に楓の頭を上げた薫は、そのまま膝の上に載せて力の失せた楓の両手を自分の両手で包んだ。
 目を閉じて祈ることしか出来なかった。
「楓。お願い、意識を取り戻して……」
 優しく包んでいた薫の手には次第に力が入っていた。すると……。
 カチッ。
 小さいがスイッチが入ったような音が薫の耳に届いた。
「今のは? 何の音かしら?」
「……ん」
「楓!」
 楓の口から声が漏れてきた。どうやら意識が戻ったようである。
「……ふっ? えっ? あっ?」
 目を覚ました楓の視界に飛び込んできたのは、自分の手を握って涙を浮かべた薫の顔であった。更に、後頭部に柔らかい何かを感じ取った。
「……とっ。何? 薫の膝枕? あんで」
「良かった。良かったわ」
 そう言った薫に頭を抱きしめられた楓。手は自由となったのだが事態が飲み込めていないまま、両腕を宙に浮かせてされるがままの状態に落ち着くしかなかった。
「ちょ、ちょっと薫。何がどうなって……」
「……そうだったわね。さっき目覚めたのは覚えているかしら?」
「はい?」
「大事な事よ」
「う、うん。え〜と……。うん大丈夫、覚えてる」
「そう。その後は?」
「……薫に両手を握られて……、あれ? で、どうなったんだっけ?」
 この質問の間も薫の膝枕は続いていた。楓も、目覚めた直後は動転したようだが、薫の質問に恥ずかしさが失せたのかいつも通りに答えている。見ようによっては、いささか問題がありそうな構図ではある。
「そう。分かったわ。……ごめんなさいね、楓。手を貸して……」
「う、うん」
 薫は、こわごわ差し出す楓の両手を握った。すると……。
 カチッ。
 小さいスイッチが入ったような音が薫の耳に届いた。
「? あにす……ん……の……」
「……楓?」
 薫は、握っていた楓の両手を楓のおなかにおいて声を掛けているが、声から察するに恐る恐ると言ったところのようである。
「……ごめんなさいね。直ぐ起こしてあげるわ」
 楓の両手を掴んで、三度目となる自身の掌の中に包んだ。
──……おかしいわね。これでいいはずだけれど。
 しばらく何も起きず、少々焦りが見え始めた薫は、若干手に力が籠もった。すると……。
 カチッ。
 スイッチが入ったような音が耳に聞こえてきた。
「……良かったわ。これで目覚めるはずね」
「……ん」
 そう言っている間に、楓から声が漏れてくる。
「……ん、ん〜」
「目が覚めたかしら?」
「ん? おはよ〜」
「おはよう」
「ん〜。ん? じゃない! あによ、あれ!」
 目が覚めるや否や憤慨する楓である。まぁ確かに、再三強制的に意識をなくさせられたのではたまったものではない。楓でなくとも怒ろうというものである。
 さて、その憤慨している楓の状態はと言えば、未だに薫に膝枕されたままであり、その事を忘れているようである。
「どうなったのかしら?」
「どうってねぇ。いきなり目は見えなくなるは、何も考えられなくなるし。まったくもう! 楓ちゃんはおもちゃじゃないんだよ」
「分かってるわよ、ごめんなさいね。楓に起こったことを確認したくて」
「む。何か納得いかないなぁ。む〜……。で、何が起こったか分かった?」
「そうね。おぼろげながら」
「う〜、何か酷い。おぼろげって、つまりはまだって事じゃ?」
 威勢良く憤慨している楓ではあるが、状態は依然として薫に膝枕されたままである。双方を見比べた場合、格好が良いとは言いがたいのは事実である。
「そうね。でも、そろそろ起きてもらえるかしら、いくら楓だからと言っても、ちょっと恥ずかしいわね。この格好は」
「う? あっ、ちょ、ちょ……」
 顔を真っ赤にして飛び起きる楓であった。楓にとって居心地が良かったのであろうか。いや、結局の所で言えば、現状を把握していなかったと言うのが真相であろう。
「ぶ〜」
 薫の斜向かいに座り直し、頬を膨らませて怒っている楓がいた。しかし、いつになったら頬を膨らませて怒ることを止めるのであろうか。
「さて、楓のこともまだ気がかりだけれど。ここが何処なのか把握しないといけないわね」
「そう言えば、何処?」
 薫は徐に立ち上がりながら、ここが何処であるのかを調べると告げた。それを聞いた楓も、後に続いて疑問を呈しながら立ち上がった。



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「ふんとに! 何処なんだろう」
「まだ怒っているのね。ごめんなさいね、あんな思いをさせて……。でも、いらいらしていると只でさえ暗いのだから、小さい物は見落としてしまうわよ」
「分かってるよ〜」
 ぶつぶつと文句を言っている楓は、薫に宥め賺されて薄明かりの中で周囲を探っている。
「おっ!」
「楓!」
「大丈夫。何かに躓いただけ。もう! もうちょっと明るいと良いんだけどな」
 薄明かりとは言え、どちらかと言えば暗いと言った方が適切といえる程度である。足下の確認にも一苦労しているようである。
「気をつけなさいよ。それと、そう都合良くは行かないわよ」
「ぶ〜」
──そう言えば、何故明るくならないのかしら? 先程は思ったとたんに明るくなった筈……。
 思いが現実となる、と言う訳ではないようである。それでも薫は先程との違いが何であるのか、疑問が残ったようである。
「薫? 何か問題?」
「あら、ごめんなさいね。ちょっと気になることがあるのよ。それはそうと楓、明かりがあるとは言っても、あまり先が見えないのだから、両手を突き出して前で動かしながら進みなさいよ、何かに……」
「いてっ」
「あぁ、言っている傍から……」
「おでこぶつけたぁ。ぶ〜。あんでここだけ下に出っ張ってんの!」
 そうぼやいた楓は、八つ当たりに突起を叩いたのだが、結局、「痛いっ」と叫ぶこととなった。相変わらず行動原理がお子様である。
「あによ。この出っ……張り……」
 額をぶつけた突起、八つ当たりした突起、そこを手で確認しているようである、が、何かに気が付いたのであろう、怒りが尻切れトンボになってしまっていた。
「う〜ん。この感触は……。ねぇ薫」
「どうしたのかしら?」
「ここ触ってみて」
「あまり良く見えないわね。ここ?」
「うひゃひゃひゃひゃ」
「あら、ごめんなさい」
 薄明かりの中である。殆ど手探りで薫は楓が指し示しているであろう場所を触った訳だが、どうやら、楓を触ってしまったようである。薫も意地悪をしたつもりはないのであろう。それでもこの状況下においては、恐怖に捕らわれることが一番の問題である。故に、この程度の事故は心の緊張をほぐすのにちょうど良いと言っても過言ではない。
「ひぃ〜、そこ脇腹。……う〜、薫。楓ちゃんはそんなに小さくないよ。遊んでない?」
「あら、違ったみたいね」
「もう! うんと」
「ちょ、ちょっと楓?」
「あ、ごめん」
 埒があかないと判断したのであろう楓が、薫がいるであろう場所に手を向けたようである。もそもそと薫の何処かをまさぐったのであろう、薫が珍しい声を上げたことからも窺い知れる。
「これはぁ、薫の手だよね?」
「そ、そうよ」
「じゃぁ、触って欲しいのはここ」
 楓の手で誘導された薫の掌が触れたのは、先程、強かに楓の額をぶつけた突起である。そこに触れた薫の手が、感触を確かめるため楓の介添えを離れ動き始めた。
「土っぽくない?」
「……そうね。この感触は土のようね」
「おし!」
「厳密には土に近いという事よ。分かっているのかしら?」
「ほ?」
「あぁ。土であることと、土のようであることが違うのは分かるかしら?」
 薄明かりの中、薫の問いに楓が上を向いた。その違いを考えているようである。
「う〜ん。それって、土じゃないかもしれないって事だよね。と言うことは、土の感触はあるけど土じゃない?」
「そうね」
「で、結局は、何?」
「分からないわよ」
「え〜」
 薫の回答に、納得がいかない様子の楓である。自分がこうではないかと考えていた物が、そうではないかもしれないと言われれば、直ぐに納得のいくものではない。厳密には、専門家であろうとも詳細に調査をしない限り断定など出来よう筈もない。そう言う意味においては、専門家もいなければ調査機器もないのである。こういう結果にならざる終えないのも当然と言えた。
「それと、楓は気にならないかしら?」
「あにに」
 涼しげに質問を投げかける薫に対して、楓の返答するその調子には苛立ちが垣間見える。ある意味手柄がなかったことになりそうであるのだから致し方がないであろう。
「何故、ここに突起があるかという事よ」
「そんなのぉ……。何で?」
「その通りよ。何故ここが飛び出しているのか。それが知りたいわね」
「え〜。……おっと、そうじゃないよぉ、薫。最初の目的忘れてる〜」
「あら、そうだったわね。ここが何処か、だったわね」
「そうそう」
「それじゃ、突起にも注意しながら再開しましょう」
「うん」
 楓の若干の怒りも何処へやら。良い返事をしてこの場所の調査を再開する。だが、足下だけではなく頭上の突起にも注意をしなければならなくなったのである。しばらく周囲を手で触り、時には顔を近づけて確認していった。
「あぁ、疲れたぁ」
「概ね見て回れたかしらね」
「そだね。結局、周りは土っぽい壁があるだけだったね」
「そうなると、答えは?」
「洞窟、かもしれないって事で良いの?」
「そう言うことになるわね」
「ま、目が覚めた時点で暗かったし、そうじゃないかとは思ってたんだけど」
「ひとまず、小休止しましょうか」
 休憩と言われた楓は、「あぁ」と声を漏らして腰を下ろすのではなくごろりと仰向けに寝っ転がった。
「楓。またそんなはしたない格好になって……。捲れても知らないわよ」
「えぇ〜。誰もいないんだし、いいじゃん」
 まぁ、パンツでも履いていればまだ良かったのかもしれないが、本日の楓はスカートである。この辺りも一九歳とは言いがたい所以である。
「あっ」
 何かを思い出したのであろう楓は、ぽんと手を打った。
「何かしら?」
「そう言えば、あの機械ってどうなった?」
「機械……。あ。波長を打ち消す装置ね。あたしと楓の間に残骸があったわよ」
「ありゃりゃ、壊れちゃったんだ」
 そう呟く楓は、あまり困ったようには見えず、他人事のような表情をしている。まぁ、装着することに不安を覚えていたこともあり、冷めていると非難することも出来ない。
「そうね」
「あ〜でもでも、帰った時に怒られないかなぁ」
 こう語った楓の表情が一転。怯える子供のようになっていた。まるで、やってしまったことに対して、親や先生に怒られるのではいかという状況と同じであろう。
「そうねぇ。でも、場合が場合だけに大丈夫ではないかしら」
「そっか。じゃぁいいや。……そう言えば、このぉ……地面……で良いのかな。ごつごつした感じがなくて良いよぉ。ふかふかとは言わないけど、ベッドで寝てるみたい」
 波長を消す装置に関しては、薫の返答に安心したようである。楓の声の調子からもそれが伺える。
「ふふふふ。面白いわね」
「えぇ〜。ホントだってばぁ」
 楓が地面と称した物の感想に対する薫の返答に、楓はごろりと回転し肘をついて上体を起こした状態で食って掛かっている。この状況下で、なんとも微笑ましい光景であろうか。
「そろそろ。再開しましょう」
「え〜。もう〜」
 ぼやく楓は、いつもの通りでまるで子供のようである。
「はいはい。ここが何処か調べないといけないでしょ」
「ぶ〜。そうなんだけどさぁ」
 そうぼやきながらも、「よっこいしょ」と掛け声を漏らした楓は、重い腰を上げるのであった。何処までも子供のような態度を示す楓には困ったものである。
「あぁ、楓。そんな言葉を使って、貴方はいくつなの?」
「えぇ、いいじゃん。何歳だろうと、掛け声は必要!」
「もう。しょうのない子ね。うふふふ」
「あ〜、笑わなくてもいいじゃん。もう。……で、どう調べるの?」
 暗がりではあるものの、笑われた楓がばつが悪そうに喋っているのが分かる。
 さて、現状の確認を再開した二人は、ひとまずは壁面を辿ることにしたようである。今までは周囲に何があるのかに重点を置いていたようであるが、壁面を辿っていけば、今いる場所の広さもおおよそ把握できる上、通路のような物も発見できると踏んだようである。
「ふむ。さっき土って言ったけど、やっぱ、違う気がする」
「そうでしょ。さっき、土のようであると言ったことが理解できて良かったわ」
「む〜。何か馬鹿にされている気がする」
「うふ。そんなことないわよ。理解するのが早い人もいれば遅い人もいる。人それぞれですものね。それと、馬鹿にされていると思うのは、自分がそう思っている、と言う考えもあるわよ。気をつけなさい」
 触り続けたことで、自分なりの結論に達した楓であるが、どうも他人との差を意識しすぎているのかもしれない。薫の言う通り、早い遅いだけで片付けて良い物ではないのかもしれない。
「それにしても変ね」
「あにが?」
「同じ所を回っているように感じないかしら?」
「う〜ん。どうかな……。そんな気もするようなしないような」
「はっきりしないわね」
 薫が珍しく苛立っている様子。言葉の端々からもそれが伺える。
「薫?」
「何かしら?」
「ちょっといらついてる?」
「……そうね」
 そう言った薫は何を思ったのか歩みを止めた。
「痛っ! もう、急に止まんないでよぉ」
「あら、ごめんなさい。楓に苛立っているのか聞かれたから、考えてしまったわ」
「まぁ、こんな所に閉じ込められてるんだし、出口も見えないし、あたしだって怒ってるんだよ」
「まぁ、そうだったのね。ごめんなさいね」
「あ〜、ひっどっ〜い。楓ちゃんだってね、こんなことされれば怒るんだよ」
 頬を膨らませて怒りを露わにする楓に、薫は吹きだしてしまう。笑っている内に薫の表情が和らいでいった。どうやら苛立ちが治まったようである。この何気ない楓の態度が、時として清涼剤になるのも楓の良いところである。
「あ〜、そこ笑うとこじゃない〜。……ま、いつもの薫に戻ったみたいだし、良しとしよう。でさ、一カ所触ってるだけでいいの?」
「どう言うことかしら?」
「う〜んとね。ドラマなんかで良くあるじゃん。壁に隠されているスイッチとか。だから、少し手の届く範囲で触ってみるとか?」
「そうね。現実的かどうかには疑問があるのだけれど。確かに、それも一理あるわね。でも、それだと時間が掛かるわよ」
 薫の“時間が掛かる”というフレーズに、楓の表情が硬くなった。地道な作業を苦手とする楓には耐えがたいのであろう。とは言え、現状をどうにかしなければいけないのは事実である。
「……でもでも、それで何か見つかれば、ううん。見つけないとずっとこのままだし」
 楓の目の色が変わった。苦手意識を変えようというものではないようであるが、現状を打破する別の手立てでもある。
「……そうね。楓がそう言うのであれば、やってみましょう」
「おう!」
 景気のいい掛け声を一人上げ、楓は手の届く範囲で壁面を触り始めた。
「……おっ?」
「どうしたの、楓」
 開始早々、ご都合主義と言われかねないスピードで、楓が何かを見つけたようである。
「ここ、何か浮いているような気がする」
「ちょっといいかしら?」
「うん」
 場所を入れ替わった薫が、楓の触っていた場所をまさぐり始めた。その手つきは、押し込まないよう的確に、そして繊細な動きであった。
「……確かに、ここだけ壁面に遊びがあるわね」
「でしょ。じゃぁ早速」
「ま、待ち……」
 と薫が止めるまもなく楓が押し込んでしまう。が、辺りには何も起きる気配がない。
「あれ?」
「もう、楓。いきなり押さないで頂戴」
「え〜。……でも、このスイッチ何?」
「分からないわよ」
「あぁもう。あんで言うこと聞かないの!」
 スイッチと思っていた場所が、そうではないと分かると今度は楓が苛立ち始めてしまう。そろそろ楓に忍耐の限界が訪れたのかもしれない。
「はぁ〜」
 長い溜息を漏らした楓は、そのスイッチの場所に手をついた。すると、スッと何かが開いたような音が聞こえた。
「ほ?」
「何か聞こえなかったかしら?」
「うん、ちっちゃかったけど。……だぁ〜。お、おぉ〜」
「楓!」
 手をついた直ぐ傍の壁面に、背を預けようとした楓が後ろ向きに倒れた。
「いった〜い」
「楓はまったく……。怪我はしてないわね」
「……あたたた。多分……。で、ここは? 相変わらず暗いし」
 薫の手に掴まって立ち上がった楓は、暗い中を首を巡らせているようである。そうは言っても暗がりであり辺りの全てが見える筈もないのだが、この状況下にいる所為か、既に条件反射となっているようである。
「あれは……。ドア、だったのかしら……。とすると……」
「薫?」
「あら、ごめんなさい。開いたのがドアではないかと考えてしまったわ」
「おぉ〜、なるほど。……って言うことは、ここは何かの施設?」
「そう考えるのが妥当ね。でも、土のような壁面はどう説明すれば……」
 新たな情報が得られたのだが、土のような壁面とドア。ここから想像されるのは何かと言えば……。
「あっ。もしかして、何者かの秘密基地、とか?」
「あぁ、楓。いくら何でも、それはテレビの見過ぎね」
「あう〜。そんなかわいそうな顔で言わないでぇ〜」
「あら、ごめんなさいね。そんなつもりはないのよ、ちょっと呆れているだけだから、ね」
「う〜。あんまかわんない〜。ぶ〜」
 膨れる楓に宥め賺す薫。いつもの光景がこの見知らぬ場所で、尚かつ暗がりで行われいる。少しずつではあるのかもしれないが、いつもの二人に戻りつつあるようである。
 しばらく薫に宥められていた楓が、機嫌を直した頃……。
「さて。どうした物かしら……」
「もう一回、壁を伝っていく?」
「そうねぇ……。そうだわ、楓には言い忘れていたけれど、もう一つ手があるわよ」
「何?」
 楓が身を乗り出すかのように声に張りを持たせて薫に聞き返している。
「ちょっと待ってなさい」
──もう少し明るく。いえ、明るさが欲しいわね。
 薫が無口になったことを疑問に思いつつ、口が開くのを待っている楓の表情は、何かを期待してワクワクしているのが明らかである。
「あら。おかしいわね」
「あにが?」
「これで、良い筈なのだけれど」
「だから、あにが」
「……そうだったわね、説明が必要ね」
「ぜひ」
「楓が目覚める前は周りが何も見えず、それこそ真の闇と言っても良かったのよ。そこで、もう少し明るければと考えたのよ。すると、今の薄暗がりになったという訳なのよ」
「で?」
「それだけよ」
「うぇ〜。まったく分かんない」
 薫の説明に、狐にでもつままれた思いの楓である。
「……な、何かしら。その疑惑に満ちた顔は」
「ふ〜ん。薫がそんなことを言うなんて、と言う表情。……でもまぁ、薫が滅多なこと言わないの知ってるし、今回は失敗ってとこ?」
 薫は、少々慌てた表情を戻しつつ……。
「そ、そのようね」
「さて、どうしようか」
「……そうね。代案としては、左右に分かれて伝っていくのはどうかしら?」
 薫は、今思いついたような単純な案を提示する。そう語る薫の表情は、明るくならなかったための焦りを引き摺っているのかやや引きつり気味である。
「じゃぁ……ピッ。ほ? ピッ」
「楓。遊んでる場合じゃないわよ」
「違……ピッ……うよ。楓……ピッ……ちゃん……ピッ……が喋……ピッ……ってるん……ピッ……じゃ……ピッ……ない〜ピー」
「本当に。今の状況は分かっているの……」
「ピー……だか……ピー……ら、……ピー……勝手……ピー……に声……ピー……が出……ピー……てる……ピー……だけ……ピー……だっ……ピーピー……て。酷く……ピーピー……なっ……ピーピー……て……ピーピー……る……」
 あまりのひどさに、楓はとうとう口を手で押さえてしまう。しかし、口を閉じて手で押さえても尚、くぐもった声として漏れ出てくる。
「……どうやら、冗談ではないようね」
 薫がようやく理解してくれたことに、涙を浮かべ肯き続ける楓である。
「……楓のその状態だと、会話は出来ないわね」
 くぐもった声を漏らしながら、再度頷く楓は完全に涙目となっていた。そこに追い打ちを掛けるかのように、楓と薫のいる場所に……。
「眩しい。何が起きたのかしら?」
「ん?」



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「どうなっているのかしら?」
 楓と薫のいる場所に突如注がれた眩しい光。いきなりの光に目を閉じてしまう楓は、口を開けて声を出さないように必死である。一方で、薫は暗闇に慣れきった目を細め、手で光を遮りながら光の向こうを見ようとしているようである。
「こんな所にいるとは」
「そうですね」
 何者かの声が聞こえてくるも、即座に何者であるか捕らえることが出来なかった二人……。
 徐々に光になれた薫の目に飛び込んできたのは、先程開いたドアと同程度の穴であった。そこに、人影らしき物が浮かんで見えた。
「表の日差し?」
 薫がぼそりと呟くと。
「そうだ。特に眩しくもなかろう」
「長老。暗がりにいたのですから」
「そうだったな」
 表の日差しになれた薫と楓の目に、“ふっ”と微笑んだ初老と思しき男と、その脇にいるのは、女のようでもあるが男のようでもあり、性別の見極めが付きにくい人物が写った。更に言うならば、男女の区別が付かない人物は長老に比べ年がかなり若いように見えた。
──……男女の判別が付かない方は、同年代かしら……。
 そう考えながら、薫は未だにくぐもった声を漏らしている楓を庇うように移動した。二人の見知らぬ男達とは真正面で対峙する格好となった。
「ここは何処です。何が目的ですか」
 険しい表情となった薫が質問する。一方、後ろにいる楓は、口をふさいでいない手を握りしめて薫を応援しているようであった。
「そちらの質問に答える前に、こちらから質問してもよろしいですか?」
「何を……」
「いえ、貴方の後ろにいる女性ですが。何故、口を手で覆っておられるのでしょう」
 男とも女とも付かない人物の問いに、更に険しい表情となった薫は答えるべきか思案した。
「……何の関係があるのですか?」
「いえ、素朴な疑問です。そう身構えなくとも取って食いはしませんよ」
「これこれ。もう少し優しい喋り方はできんのか。この場所は、この……方達にとってはまだ見知らぬ場所なのだ。身構えるのも致し方なかろう」
 長老と呼ばれた男が仲裁に入る。しかし、もう一人の人物はその言いように対して……。
「長老と言えど、これは失敬ですね。この方達を評して喋っておりますし、私は、丁寧さを意識しないと不味いのですよ。よくご存じの筈です」
 この若い男とも女とも付かない人物は、薫と楓を評して丁寧に話していると言うことであるが、あまりにも丁寧すぎる言葉は、時として冷たいと受け取られてしまうものである。
「この者の丁寧すぎた言葉遣いは謝ろう。さて、この者の質問に答えてはくれないかな?」
 かなり融和な雰囲気を醸し出す長老と呼ばれた男であるが、薫はどうしたものか思案しっぱなしの様子で、未だに険しい表情を崩していない。
 一向に口を開かない薫だが、背後から左袖が引っ張られたことで顔を向けながら……。
「……楓。何か言いたいの? でも、今の貴方は……」
 その言葉に緩く首を振る楓は、徐に覆っていた手を離し口を開いた。
「ピーピーピー……こ……ピーピーピー……ん……ピーピーピー……な……ピーピーピー……状……ピーピーピー……態……ピーピーピー……で……ピーピーピー……す」
 その場にいる全員が耳をふさぐ程の音量もさることながら、その警報とも言える音が邪魔をして、楓の言葉が殆ど聞き取れない状態であった。
 語り終えたのか、理解して貰えたと感じたのか、楓は笑みを漏らして再び口を閉ざして手で覆った。
「これは溜まらんな。いつからだね」
「つい先程。……そうですね、あなた方が現れる直前ですね」
「長老。一体これは……」
 疑問が疑問を呼んでいるようであるが、楓としては、どうにかして欲しいのであろう。薫が楓を前に出さないように塞いでいる腕を掴んで、潤ませた瞳で訴えかけていた。
「ううう。……何とかなるか分からんが、我々に原因がありそうだ」
 長老は、徐に両手を宙に走らせた。恰も何かを操作でもしているかのような仕草である。
「これでどうかな。声を出してみてくれないか」
 長老の言葉に躊躇する楓。何がどうなったのか分からずも、左手を握りしめて……。
「え〜と。おぉ〜。直ったぁ。直ったよ〜、薫ぃ」
 掴んでいた腕に抱きついて、直ったことを喜ぶ楓。仕舞いには、薫に抱きついて泣き出す始末である。その後しばらくは、薫に頭を撫でられながら泣きじゃくっていた楓である。普通に喋ることが出来るのがそれ程までに嬉しかったのであろう。
「……いろいろありましたが、先程の質問に答えていただけますか?」
 泣き止んだ楓を傍らに、凜と立った薫が既に述べていた質問の回答を求める。傍らにいる楓には、この薫の姿勢が頼もしくもあり怖くも感じているようである。一方、回答を求められた長老ともう一人は、薫の追求に臆する様子を見せていない。
「……そうであったな。では……」
「それは私が……」
 表情を硬くした若い人物は、長老が答えようとしているのを遮った。仮にも長老であろうに、ここには序列と言う物が存在しないのであろうか。
「うむ」
 怒るでもなく窘めるでもなく、長老は若い人物の言い分を肯定した。この口ぶりから判断するに、それなりの序列は存在しているようである。
「では。……ここはあなた方のいた地球ではありません」
「地球ではないと。では何処ですか」
「地球です」
 そう答えた若い人物の表情からも冗談を告げているようには見えなかった。だが、受け取った薫は愕然としていた、いや、からかわれたと感じても不思議ではない。
「ちょっと待って下さい。地球ではないと仰っていませんでしたか?」
「その通り」
「そして地球であるとも……。一体どう言うことです」
「言葉の通りです。あなた方のいた地球ではありませんが、ここは地球です」
 釈然としない薫がそこにいた。傍らにいる楓は、訳が分からないと言った表情をしている。地球ではないが地球とは一体どう言うことなのであろうか。
「もう一度確認しても?」
「何度問われても、あなた方のいた地球ではありませんが、ここは地球です。と答えるしかありません。これは事実です」
「……そうですか。理解出来ませんが、貴方の言い分は分かりました。次の質問です」
 詰め寄ろうとして失敗した雰囲気が漂う薫は、緊張をほぐすためか焦りを払拭するためか、会話を一呼吸置いてから、堂々巡りとなったために質問を変えることとしたようである。
 傍らにいる楓を気にしたのか、ちらりと見た薫は「はぁ」と一つ溜息をついてしまう。何故かと言えば、握りしめた腕が僅かに震えており、やや引き締まった笑みを湛えているのだが力が入っているように見えるからで、どうやら、薫の邪魔をしないよう声に出さないで応援しているようである。
「どうぞ」
 別の質問をすると告げた薫に対してこう答えた若い人物であるが、顔色一つ変えていない。感情というものがあるのか、いや、感情表現が出来るのか疑問を感じずにはいられない。
「ん、んん。いつ帰ることが出来ますか?」
「直ぐには無理でしょう。ですが何れは帰れます」
 またもや曖昧な回答が返ってきた。それに対して薫は……。
「またですか。正確な回答を要求します」
「そう言われても無理なものは無理ですし、我々が帰すと言っても帰れませんよ」
「な……」
 苛立ちを覚えた薫が詰め寄ったのだが、意に介していないのか若い人物は表情一つ変えなかった。投げやりとも感じる言いように、薫は怒り心頭となったのであろう、二の句が継げなかった。
「……ふむ。そこまでですな。貴方の質問は、この者がした以上の回答は不可能なのだ」
「では、この方の回答は正しいと?」
「そうだ。私が答えても同じだよ」
 そう言われてしまえば、いくら理屈で攻められる薫だとしても何の反論も出来よう筈もない。悔しげな表情をする薫なのだが、それが回答なのであれば仕方がないとしか言い様がない。
「……あの」
「何でしょう」
 場の雰囲気に、恐る恐る声を上げたのは楓である。その表情も縮こまってしまっている。
「そんなに怯えなくてもいいですよ」
──……そんな表情も出来たのね。嫌らしいわね。
 薫が内心で思った通り、楓に向けられた表情は優しさに満ちあふれていた。いや、もっと別の親しみが籠もっているようにも感じられる物であった。
「質問。帰れないんなら、どこに住めば……」
 楓の質問に、はっとする薫。若い人物に対して、何故か冷静ではなかった自分を感じざる終えなかった。
「楓……」
「へへ。帰れないんじゃ、しょうがないじゃん」
「ありがとう」
 薫の表情が穏やかになり、いつもの状態に戻っていくようである。それを見た長老は……。
「うんうん。良かった」
「ちょ、長老。それでは、私が煽ったように聞こえますが?」
「これは済まないな。この場がぴりぴりしすぎていたからな。少しは和んでいいだろう。元より諍いをするつもりなどないのだから」
「それはそうですが……」
 長老の涼しげないいように、若い人物は困惑しているようである。詰まるところ、薫と若い人物の言葉遣いが招いた緊張と言ったところであろうか。
「で、何処……でしょう?」
「あっ、そうでしたね。長老、どうなります?」
「うむ。ここがそうだ」
「……え? えぇ〜」
 素っ頓狂な声を上げる楓。傍らにいる薫も目をまん丸にして驚いていた。
「ここって、洞窟じゃないんだ」
「そうなるのかしらね。……そうね。良く考えてみれば、ドアのある洞窟はあり得ないわね。楓の言った、秘密基地でもない限りは」
「おぉ。って、薫ひっど〜い」
 合点のいった二人である。確かに、ドアが付いているのであれば、只の洞窟と言うのはあり得ない話である。
「となると……。貴方……、あら、お名前を聞いていませんでしたね」
「おぉ、そうだったな。少々出会いには問題があったが、名を伝えておこう。私は、ここで長老をやっているリーツ・フィフナイ・プトだ」
「遅ればせながら、私は長老の側近をしております、リーツ・シクワン・プトと申します」
「え〜と、リーツさん、よろ……。あれ? 二人共リーツさん? えぇ〜!」
 再び素っ頓狂な声を上げる楓は、口をあんぐり開けたまま思考が混乱したようである。長老も若い人物もリーツと名乗ったのであるからして当然と言えよう。だが、相変わらず冷静なのは薫である。
「……そう言うことですね。リーツとプト、どちらが名字に当たるのかは分かりませんが、英語圏で言うところのミドルネームが名前と言うことでよろしいでしょうか」
「……フフ。流石と言うべきだな。その通り、私の個人を表すのはフィフナイ。長老と呼んで頂いても構わない」
「……脱帽です。私の個人を表すのはシクワンです。シクワンと呼んで下さい」
「む〜」
「楓……、あなたはもう」
「はははは」
「ふふふ」
 説明されても尚、一人悩んでいるのが楓である。何処かに納得がいかない所でもあるのであろう。楓の思考は理解しがたい部分がある。
「……すいません。私達の方は、まだ名乗っていませんでしたね」
「いや。大丈夫だ。貴方は……、今は本藤薫だったかな。で、そちらで悩んでいるのが藤本楓であろう」
「えっ。ご存じなのですか?」
「それもそのうち分かるだろう」
「……分かりました。お聞きするのも無駄のようですね」
「……」
 シクワンと名乗った人物は何を語るでもなく、ふっと息を漏らして薫の物わかりの良さに感心しているようであり、呆れかえっているようでもあった。
「さて、楓……さん」
「……」
 フィフナイと名乗った長老が楓に声を掛けたのもの、楓は、未だに考え悩んでいるのか聞こえていないようである。
「……楓」
「楓! 聞きなさい」
「は、はい。お父さん。……て、あれ?」
 長老の呼び捨てに対して、背筋を伸ばしてしゃんとした楓が、父親と似てでもいたのかとんでもない反応を示した。
「楓……。貴方は……」
「ご、ごめんなさい。間違えました」
「いや、いい。私こそ済まない、呼び捨てにしてしまった」
「いえ。大丈夫です」
「脱線したか……。さて、あなた方二人にはやって貰いたいことがあるのだ。付いてきて欲しい。あぁ、危害を加える訳ではない。専用の場所に行かねばならないのだ安心してくれ」
 一瞬、緊張が走った薫に安心するように告げた長老。和やかになったとは言え、まだ信用しきっていないと言うことなのかもしれない。
「薫。ついて行こ」
「……そうね。でも、安心しては駄目よ」
 楓の耳元でささやく薫は、呼び寄せられたのであるからには、何か目的があるのだろうと踏んでいたようだ。“やって貰うこと”それも、薫が聞きたかったことである。
 長老とシクワンに遅れて表に出る楓と薫が見た物は……。
「おぉ。これはすんごい」
「そうね」
 表に出た二人が振り返って見ると、今までいた場所が、確かに土作りの家と言える建物だったことが理解できた。
「う〜ん。これって、どっかで見たような……」
「地球でも、大昔の赤道付近に住んでいた民族が似たような作りの建物に住んでいたそうよ」
「ふむふむ。でも、これ土じゃないんだよね?」
「よく知っていますね」
「へへん」
 ちょっと自慢げな楓であるが、その殆どは薫の解説によるものであることをここに付け加えておこう。
「地球の土とは若干成分が違うようですが、ここでは、これを土と呼んでいます」
「地球のこと、お詳しいんですね」
「いえ、まだ知識としてしか知りません」
「まだ?」
「あれ? 間違いですね、まだ、は忘れて下さい」
 シクワンの言葉の揚げ足を取るつもりはなかったのであろうが、つい疑問を呈してしまった薫。それに対し、何故そんな言葉を使ったのか疑問に思いながら訂正するシクワンである。
「でもぉ、ちっちゃいね。それに、ここだけ離れてるの何か寂しいよ。ほら」
 薫とシクワンのやりとりを余所に、小さいことを残念そうにしながら、楓が指さしているのは両隣というか周囲である。
「そ、それはお二方だけの住む場所ですから」
「へ? でも、他にも住んでる人いるんでしょ?」
「おりますが、この辺りは新しい場所ですのでまだいないんですよ」
「それなら、あっちかそっちに近いところでもいいじゃん」
 自分に関わらないことには、楓の方が素早く反応している。楓と薫の絶妙な関係が窺い知れる。方や、シクワンは、まだ先程の言い間違いに対する疑問が残っていたためなのか、矢継ぎ早の楓の質問にてんてこ舞いであった。
「それは、どう言ったら……。長老ぉ……」
 楓の質問攻めに、遂に根を上げたシクワンだが、ここに来て、やや地が出かかっているように見受けられる。そのやりとりを見ていた長老も、やれやれと言ったそぶりで口を開いた。
「楓さん。何故なのかについては、意思によるものとしか言い様はない」
「意思? 誰の?」
「誰、と言うのは少々難しい質問だ。ここのであり、お二人のであるとしか言えない」
「ぶ〜。またなんか難しい」
「追々分かってこよう。さて、そろそろ向かいたいのだがよろしいか?」
 不承不承と言ったところではあろうが、楓と薫は長老とシクワンの後に付いていくことにしたようである。
 向かったのは、建物を出て左手の方角である。その道すがらは、先程楓が指摘した通りで左右には何もなく見渡す限りの更地があった。もう一つ、道路と言って良いのか。そこは舗装などはされておらず、剥き出しの地面の上を歩くこととなった、のだが……。
「薫。この地面、何かふわふわだね」
「そのようね。随分柔らかい感触ね。やはり、只の土ではないようね」
「はぁ、そうなんですか。私にはよく分かりません」
「うむ。ここでの土は概ねこんな感触だ。足への負担が少なくなる」
「ほ?」
 楓の率直な感想に薫も頷いており、楓達の住居内でベッドと称した(楓が、ふかふかとまでは言わないと言っている)楓の感覚が証明された格好になる。だが、長老が述べた利点について、楓は即座に理解できなかったようである。
「どうやら説明が必要なようね。そうは言っても簡単に、大ざっぱにするわよ」
「う、うん」
「足を下ろした際には少なくとも体重が足に掛かる、と言うことは、当然足への負荷が相当になるのは分かるわね。では、下ろす先で吸収してくれるのだとするとどうなるか。そう、足への負荷も大分軽減出来ることになるのよ。これで理解はできたかしら?」
「おぉ。なるほど。この地面は凄いんだね」
 そんな話をしながらゆったりと進んでいく楓達である。そんな一行が、住宅街にさしかかるとシクワンが徐に口を開いた。
「あっ、長老。一つ忘れてます」
「おぉ、そうだった」
「今度は何ですか?」
「そう邪険にするものではない。あなた方にも重要なことだ。こっちだ」
 そう言った長老は今いる通りを右に折れ、やや細い通りへと入って行った。
「何処行くんだろ」
「分からないわね」
 腹をくくったのか、薫の相づちはあきらめにも似た抑揚を伴っていた。
 長老が目指したのは元の通りからほど近い場所にあった。そこは、この辺りの住居が三つ程の敷地に建っていた。
「ここだ」
「ここ?」
「ここは、いわば食堂と言って良いであろう」
「えっでも、ご飯はお家で食べるんじゃ」
「そうか。だが、ここでは住居に食事を作る設備がないのだ。いや、作ってもなくなってしまうのでな」
「はい? そんなことある訳……」
「あるんですよ。既に実証済みです」
「そう……。そう言う話を聞かされると、ここは確かに地球ではないようね」
 不思議そうに、呆れた表情で受け答えしている楓に、真顔でシクワンが応対している。その一方で、薫は、もはやここが地球ではないと確信した様子である。
「もう一つ言っておこうか。この食堂は優れていて、一人一人の状態、つまりは体調などを考慮した食事が取れるのだ。今日の夕食でよく分かるだろう」
 長老のこの説明に歓声を上げ、感心しきりの楓に対してやや冷めている薫がいた。
「さてと。本来の場所に向かおう」
 そう言った長老は、食堂内の説明をすることなくその場を離れていくのだが、食べ物につられやすい楓が、あまりにも離れなかったために薫の雷が落ち、渋々その場を離れたことを付け加えておく。
 元の道に戻った一行は、長老を先頭に当初の目的地へと向かって住宅街を歩いていた。
「そろそろだな」
「そうですね」
 長老とシクワンがそろそろと言っていると、確かに、住宅街の様相が一本の道を挟んで変わった。住宅街より広い敷地面積を持った建物が乱立していた。ちなみに、住宅街の建物は全て平屋であるが、こちらは様々であった。
「こっちだ」
 そう言った長老は、横切る道を渡って左に曲がっていく。
 しばらくそのまま進んで行った。進んだ距離としては、先の食堂に向かった分を軽く超えていた。
「ここだ」
 長老の止まった場所、ここにも建物が建ってはいるのだが、周囲とは違って敷地一杯を使ってはいなかった。それでも建物の建築様式などは周囲と同じであり、外観は楓達の家とされた建物と同じ土作りである。
「何かちっこい。しかも、あんで一階だけ?」
「そうね。地球でなら、余っている部分には別のビルが建っていそうね」
「そうですか。ここでは、必要な量の敷地が割り当てられますので、増加は用意ですよ」
「増加? 人?」
「いえ。建物です」
「へ? 建物が増加? 増築って事?」
「え、え〜と。はい、そうなるかと思います」
「む〜」
 またまた、頭脳を惑わせる言葉に楓は唸ってしまう。方や薫は無言のままでいる。質問に対して、欲しい回答が得られないと判断したようである。
「入れるか?」
「お二人もおりますし、入れると思います」
「そうか。薫さんに楓さん。その入り口の右脇にある窪みに右手を当ててくれないか」
「何でですか」
 やや恐れを含んだ表情をしている楓。その脇をスッと抜けて、薫は長老が指し示した場所に右手の掌を宛がった。
「……」
 何かがあったのか、小さく薫が声を漏らした。すると窪みが青色に光った。だが入り口は開きもせず反応もしなかった。次は楓の番であるが続かなかった。どうやら薫の様子を見てかなり怯えてしまったようで腰が引けていた。
「楓さんもやってくれないかね。そうしないといつまで経ってもドアが開かないのだよ」
 怯えている楓に業を煮やしたのか、長老が少々きつく促している。それでも楓は……。
「え〜、そんなこと言われてもぉ」
「……大丈夫だったわよ。ほら、手には特に何もないでしょ」
 怯える楓に宛がった掌を見せる薫。そうまでされてしまえば、楓も覚悟が決まったようで恐る恐る入り口の横に近付き窪みに右の掌を宛がった。
「うひゃっ。な、何?」
「駄目よ」
 楓の声に反応した薫が、とっさに楓の掌を離さないように掴んだ。
「うぇ〜ん。ひっ!」
 唸ったものの、薫の表情に硬直したようで掌を窪みから離すことはなく、薫の時と同じように青色が光った。すると……。
「……あ、開いた」
 引きつり気味だった楓がぼそりと呟いた。だが、開いたドアから見えるのは暗闇であった。
 薫から解放され、顔だけを覗かせて中を見ていた楓の腕が急に掴まれた。
「ちょ、ちょっと薫ぃ。何? いやぁ、引っ張らないでぇ」
 涙声になりながら、薫に引っ張られるようにして建物内に入っていた。
「暗いわね。明かりが欲しいわ」
 言うが早いか建物内が明るくなった。何処に光源があるのか、いや、そもそもスイッチを押していないにも関わらず明かりが灯ったことになる。
 さて、明るくなったことで、建物の中を見て取ることが出来るようになった訳だが、内装が施されておらず剥き出しのままである。更には、調度品の類が見当たらなないどころか、テーブル一つすら置かれていないのである。
 最大の特徴と言って良いのか、出入り口を入ったこの場所は非常に狭く、受付目的の空間と言って差し支えない程度である。それを裏付けるかのように、入り口を背にした右手奥の壁面に切れ目のような物が見て取れた。
 薫がこの場の確認している間に、只でさえ怯えていた楓は、薫の腕にしがみつくほどになってしまっていた。
「薫ぃ。誰かいるんじゃ」
「いないと思うわよ。家と言われた場所でのことを思い出しなさい」
 怯える楓の手に触れて、子供を諭すかのように優しく問いかける薫なのだが、当の楓は唸り続けている。どうやらまだ怯えているためであろう、なかなか思い出せないようである。
「薄暗かったのは何故?」
「……う〜ん。……あぁ、そっか。でも、待て待て……」
 唸り続ける楓を余所に長老が薫の後ろから……。
「流石だ。そこまで理解しているとは」
「理解している訳ではありません。珍しいことですが、直感……と言った方がいいでしょう。それで、ここで何をさせたいのですか?」
「直球ですな」
「いけませんか?」
 褒め称えていた筈が、一瞬にして緊張感を強いられる展開に変わってしまった。薫が、未だにここと長老とシクワンを認めていないと言うことなのであろう。
「あ、あの。二人共止めて下さい。さっきの和やかさは何処に行ったのです」
「まだ目的を聞いていませんので、それを問うているだけですよ」
「いや、薫さん。そんなとげとげしく言わなくとも……。ひっ!」
 今度は穏便にしようとしているシクワンが息をのんだ。それほどまでに薫の目には力が籠もっていたと言うことであろう。
「……。お? どったの?」
「楓さぁん。薫さんに何か言って下さいよぉ」
「へ? 何を?」
「あぁ」
 とっさに楓に助け船を求めたシクワンは、楓の反応に途方に暮れたのであった。しかも、シクワンの地が大分出始めているようなのだが、本人は気が付いていない。
「色を作って欲しい」
 緊張感の中、長老が口を開いて語った色を作るとは、一体どう言うことなのであろうか。そう語った長老の表情は真剣そのもので、冗談ではないようである。だが、内容があまりにも常識離れしすぎているため、薫も楓も一瞬己の耳を疑ったようで、互いの顔を見やっている。
「色? 色って青、赤、黄、とかの色?」
「そうだ」
「色鉛筆とか絵の具とか作れって事?」
「いいや違う。色そのものをだ」
 更に、長老の言葉に耳を疑う二人である。楓はもはや何のことだかさっぱりと言った表情をしている。方や薫は、右手で額を覆って何やら考えているようである。
 しばし無言が続いたが……。
「……色の原料を作って欲しいと言うことでよろしいですか」
「そう言っても良いかもしれんな」
「ふむ。ここでは色が不足してる?」
「そうだ」
「何故、私達が作るのですか」
 長老は口をつぐんでしまった。質問に対する答えを待つ薫の視線に、力が宿ってくるのを長老の傍にいたシクワンが感じ取って……。
「長老? どうしました。何故、何も言わないのです。返事を……」
「……あぁ、そうだな。お二人には、ここで色を作って欲しい。どうしたらよいのか私は知らないのだが、作って貰わないとならないのだ」
 どうにも要領を得ない説明に、薫は長老に向けていた視線を外す。悔しい、理解できないその蟠りをどうすれば良いのか困っている表情で俯いてしまった。

〜第二章 「現出」 完
縦書きで執筆しているため、漢数字を使用しておりますことご理解ください。
下記、名称をクリックすると詳細を展開します。
ふじもと かえで
藤本 楓
西暦2108年12月25日生まれ・身長/体重:165㎝/50㎏
職業:専課学校 基底学部化学科5年生

 藤本家の長女で、両親と三人暮らし。
 性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識、知能が低い訳ではない。また、人見知りもしないため、誰とでも仲良くなれる。
 食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。
ほんどう かおり
本藤 薫
西暦2108年12月25日生まれ。身長/体重:167㎝/50㎏
職業:専課学校 基底学部物理科5年生

 本藤家の長女で、両親と三人暮らし。
 性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。楓にとっては、無くてはならない親友になっている。
 食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。
リーツ・フィフナイ・プト
生誕日不明・身長/体重:不明/不明
職業:長老

 長老としての厳しさと優しさを見せる。
リーツ・シクワン・プト
生誕日不明・身長/体重:楓や薫と同程度/不明
職業:長老の側近

 長老に比べかなり若いが、丁寧すぎる言葉遣いをする。よって、相手を緊張させてしまう。
不明な地
 楓と薫が現れた場所。
 薫の問いに「あなた方のいた地球ではない。ですが地球です」と回答された場所。
えりあ
エリア
 道州制を拡張改定した考え方で、太平洋側から日本海側を一纏めにしている。
 道州制の場合は、どうしても東京を中心に考えがちで、周辺の過疎化を避けられない弱点があったため、新たに提唱された思想。
 大動脈を地理的中心線に置くことができ、分散にも適している。
きかがっこう
基課学校
 基礎課程を学ぶ学校を指す。
 学問の基礎はもちろんのこと、忘れがちになる人間性を育む基礎も含まれている。
 21世紀の小学校、中学校が九年一貫教育に置き換わった物と考えてよい。
せんかがっこう
専課学校
 専門課程を学ぶ学校を指す。
 21世紀の大学、専門学校が置き換わった物と考えてよい。
 尚、入学年齢は21世紀の高校と同じ。よって、高校以上と言うことになる。
いりょうしつ
医療室
 専課学校の保健室は概ねこの施設。
 専門の学問を学ぶ上で、怪我、火傷等々学部によって緊急で治療が必要になることが希にある。
 そのため、それなりの設備が整えられていることから、保健室ではなく医療室となった。
びーびー
BB
 ”BB”は、Business Blockの略語で、企業を集中させたブロックになる。
 理由は、昔からあった共同開発を増やす狙い、若者を早い段階で社会に参加させる狙い、などにより、遠くより近くが良いであろうと言うことで、この配置を採っている。
 結果、集まった企業は、概ね専課学校の学部が中心となった。
しーびー
CB
 "CB"とは"Commerce Block"の略で、商業ブロックに当たる。
 この商業ブロックには、大きく二つの役割がある。
 一つ目は、大商業施設、または、ブロック全体が大型のショッピング・センターとしての役割。
 その中には、移動拠点としての宿泊施設も併設されている。
 二つ目は、交通ルートを纏めるターミナルとしての役割。
 交通ルートには、大きく三つ。
 エリア中心地とを結ぶルート。
 近隣の企業ブロック、住宅ブロックとを結ぶルート。
 その三つを纏めたターミナルの役割を担っている。
えるびー
LB
 "LB"とは"Life Block"の略で、居住ブロックに当たる。
 マンション、アパートの減少により、住宅地が大分変貌している。
 空き住宅地と一戸建て地区をまとめ、2階屋、3階屋が、高層の集合住宅に置き換わっている。
 日本では窮屈な住宅空間であったが、空き住宅地の恩恵に預かり、ゆとりある住宅空間を実現している。
 居住エリアには、必ず緑地公園が設けられ、心地よい生活を営めるようになっている。
だい?じゅうたく(こうそうしゅうごうじゅうたく)
第?住宅(高層集合住宅)
 高層集合住宅のことをさすが、マンション、アパートとは趣が少々違っている。
 従来の一戸建てを改装に積み重ねた高層住宅となる。
 一階建てから三階建てまであるが、二世帯住宅はない。
 地名+施工番号+住宅で呼ばれることが多い。



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