K_KOMAI'S HOUSEのバナー トップのイメージ 矢のイメージ Ranking 矢のイメージ メール
Soly japanese only.
書き物の部屋のイメージ オリジナルと二次創作を揃えております。拙い文章ですがよろしく(^_^)!
エンドレス・キャンパスのバナー エンドレス・キャンパス



     1クリックすると展開/収納を切り替えます。


 夕暮れ色の光が差し込む、学生会館の二階にあるオープンスペースの食堂・喫茶。
 この日の調査を終えた学生達が、休憩のためにちらほらと訪れていた。
「明子ぉ。二人共、遅いね。あにやってんだろ。もうすぐ一八:〇〇だよ? 晩ご飯どうするんだろ?」
 ズズズッ。
「あっ」
「あらま。飲み終わっちゃったわね。
 ……でも、そう言えばそうねぇ。実証実験は、もう終わっている筈よね」
 聖美と明子の二人は、本日の実証実験には参加しておらず、上空で鎮座し続けている建造物の調査を行っていたのである。
 ガタッ、と席を立った聖美に……。
「あら、何処に行くの?」
「まだ来なさそうだから、もう一杯飲む」
「聖美、夕飯前よ」
「ぶぅ〜。座って待つだけって暇じゃん」
 立ったまま、明子に抗議を始める聖美は、どうやら手持ちぶさたのようである。
 確かに、いつ来るともしれない訳であるから、暇をもてあますのは当然と言える。それにしても、飲み物で暇を潰すのはどうなのだろう。仮にも、明子が目の前にいるというのに、なんとも困った御仁である。
「……聖美は、私だけじゃつまらないのね……。しくしく」
 明子が、突然芝居がかったように訴え始めた。
「うっ」
「……答えてくれないのは、そう言う事なのね。……酷いわ」
「……あ。え〜と。そう言う意味じゃぁ……」
 明子の態度に動揺を隠せない聖美は、立ったまで視線を巡らせていた。
 明子が上目遣いにちらりと聖美を見た時、聖美と視線が合った。
「……あ〜、明子。嘘泣きな上に芝居までしてる」
「あら。ばれちゃったわね」
「ぶぅ〜。酷い〜」
 そんな、のどかな時間であるのだが……。
 ピンポーン。
「夕方のひとときですが、学校からの連絡です。
 物理科五年生、岩間聖美。化学科五年生、山田明子。以上の二名は、実験棟のラボ二〇二までお出で下さい。
 繰り返します。……」
「はっ?」
「聖美。何かやったんじゃ……」
 ドン!
「んな訳ないじゃん。
 ……あっ! 楓だ。まさか……」
 立ったまま、聖美はテーブルに両手を思い切り叩き付けて抗議した一方で、何かよからぬ想像してしまったようである。脱兎の如くに食堂を出て行ってしまう。
「ちょっと、待ちなさい。聖美!」
 声を掛けるも、一目散に掛け出して行ってしまい、明子が慌てたのは言うまでもない事で……。
「さと……」
 ガン。
「いたっ」
 慌てて立ち上がったせいで、明子は膝をテーブルに強かに打ち付けてしまう。
「もう。いたた……。待ちなさい!」
 明子は膝をさすり、打ち付けた足をかばいつつ、聖美の後を追っていった。
 そして、思い込みよって飛び出した聖美は……。
──……楓。楓。
 一目散に実験棟を目指して、学生会館から表へと出た聖美を待ち受けていたのは……。
「あちぃ〜。……何て言ってる場合じゃない。楓……」
 九月には入っているのだが、まだ、茹だる暑さが残る表に出た聖美。愚痴を溢しつつも、熱さも何のそのと必死に走った。
 楓のこととなると、以前よりも明確に不安を覚えている聖美である。それは、友人であると言うよりは、親友……、いや、それ以上なのかもしれず、本人以上に周りがそれを理解している。
 なんと言っても、唯一と言って良いほどに、とことんまで口喧嘩の出来る関係であり、それを繰り返していてさえも、どちらも愛想を尽かすことがなかったからである。
──だぁ〜。あんであたしがこんな……。
 楓に何かあったと思い込んで、いきなり走り出してしまった聖美であるが、ふと、自分の取った行動に気恥ずかしさを覚えたようある。だが、それをおくびにも見せたくないから、必死に走っていると言ったところのようである。一方で、明子も呼び出されている事を忘れている。いや、気恥ずかしい自分の行動に、それどころではないのかもしれない。
「はぁ……さ、聖美……はぁ……ま、待って……はぁ……ちょ、ちょっと」
 後方から明子が声を掛けているのだが、か細い声も手伝って、聖美には届いていないようである。
 そもそも明子の体力は、以前に楓にも指摘された通りで散々たるものである。楓と同程度の体力がある聖美に、追いつけよう筈もなかった。
 これでは、聖美が呼び出されと勘違いをして、明子が思い止まらせようとしている構図にしか見えていない。
「はぁはぁ。聖美ぃ……はぁはぁ」
 必死に走る明子だが、その前方に、聖美の姿は既にない……。
 息切れしている明子は、もう、聖美に向かって声を掛ける事しか考えられないようである。
「おっと。そう言えば、呼ばれたの私だけじゃないんだっけ。って、明子はどうした……。げっ!」
 実験棟に入った聖美は、食堂で覚えた熱は冷めたのか、我に返って思い出したようである。
 振り返って見れば、走っていると言うよりはむしろ、よろよろと歩いているようにしか見えない明子を発見した。
「明子ぉ! 早く早く!
 ……あっ。ま、不味い! 思いっきりおいてきた? で、走ったあたしを追いかけてきた? ど、どうしよう、どうしよう。明子に怒られるぅ」
 明子を置いてきたことを認識した聖美は、それほど広くはない実験棟の入り口を、行ったり来たりし始めた。いかに動揺しているかが伺える。
 明子が近付くにつれ、聖美の移動速度が上がる。
──不味い不味い。
「ひっ」
 明子が実験棟の入り口に到着すると、息をのんだ聖美の声が小さく聞こえた。
 滅多にない、明子の雷を覚悟したのか。
「はぁはぁ。何を……狼狽えて……いるのかしら……ね。はぁ〜。聖美」
「ひぃ〜」
 呼吸を整えながら、明子が聖美の動揺を捕らえて詰め寄っている。走らされた恨みもあるようにも感じられるが、果たして……。
「ふぅ〜。うん。呼吸も整ったわ。さ、行きましょ」
「へ?」
「へ、じゃないわよ。呼び出されているんだから行くわよ。それとも、何かあるの?」
 明子を前にして珍しく、首がもげるのではないかと思えるほどに横に振る聖美。どうやら、核心を突かれないように逃げたようである。
 実験棟の二階に上がった聖美と明子は、指定されたラボ二〇二が見える位置にいた。
「ロックは、掛かってないわね」
「う、うん。あっ、しかも開いてるし。……で、入るの?」
 明子が語った通り、講義ラボのドアの上にあるランプは、ロックがされていない事を示す青が点いており、ドア自体は内部に固定でもされているのだろう開いていた。
 何故この様にランプが付随しているのかと言えば、危険を伴う実験が行われている場合に、周囲に知らせるという目的と、実験中に無闇に外部から入れないようにする目的がある。現在は、実験で使われていないため、未使用と同じ扱いなのであろう。
「何を言っているのよ。それに、一目散に掛け出したのは誰だったかしらね」
「あ〜。う〜。でもさ、呼び出し理由も分かんないんだよ」
 楓のことが気がかりで飛び出したのは何処へやら、この期に及んで尻込みをする聖美である。その姿、表情を見た明子は、がっくりと肩を落として……。
「はぁ〜。全くしょうがないわね。この姿を楓が見たら何て言うかしらね」
 そこはそれ、それなりに長い付き合いであるのだ、奮起させる術くらい心得ていよう。その証拠に、喋っている明子の表情が、これならどうだと言わんばかりである。
「う〜。何かしゃくだけど、入る!」
 聖美はそう決心して、ラボの中に足を踏み入れる。
「放送で呼ばれました、化学科五年生の山田明子です」
「……」
 続くであろうと思われた聖美は、決心したにもかかわらず、起こるであろう事への不安、あるいは緊張でもしているのか、言葉が出てこないようだ。
 それを見た明子が右肘で聖美を小突いた。
「あ、え、え〜と。物理科五年生の岩間聖美です」
「泉さん、呼び出した学生さんが来ましたよ」
 入り口に近い研究員と思しき人物が応対し、奥に向かって泉という人物に声を掛ける。
 待たされている聖美は、何が行われるのか、何を告げられるのかと、緊張しているのが表情から伺えた。片や明子は、聖美ほどではないようだが、若干の緊張が見え隠れしている。
「はいはい。お待たせしてすいません」
「いえ」
 その喋り方から、掴み所のなさそうな、ひょうひょうとした男が奥からやってきた。
「え〜と。隅の方に行きましょうか」
 差し出された手の方角に移動する明子と聖美。入り口には近いが、他の研究員と思しき人達からは、やや離れた実験机に移動する。
 三人が椅子に腰を下ろすと、泉と呼ばれた男が徐に喋り出す。
「私は、学生連絡会から派遣されております、泉と申します。今回の実証実験のまとめ役と言えば良いですかね。それをやってます」
「はぁ。それと呼び出しに何が?」
「え〜と、実はですね。本日の実証実験で、本藤さんと藤本さんでしたか。お二人が、行方不明になりました。それを、ご友人である二人にお伝えするためにお呼びしました」
「えっ?」
 明子は思わず声を漏らした。片や聖美は……。
「い、今、何て……」
 泉の言葉が、想像だにしていなかった内容であったためであろう、聖美は聞き直した。
「ですから、本藤さんと藤本さんが行方不明になったと……」
「……んで」
「はっ?」
「あんでよ!」
「え、え〜と。どういう意味で?」
「何で、楓と薫が行方不明なのかって事よ!」
 聖美は、大声を出して怒鳴った。
 何故、楓と薫がそんな目に遭わなければいけないのかと……。
 傍らにいる明子は、事態がまだ飲み込めていないのか、じっと正面を見据えたままである。
「いや、そう、私に言われてもですね」
「あんたが傍にいたんでしょ?」
「いえいえ、私は、その場に居合わせてはおりません」
 泉の言葉に、聖美の表情が変わった。
「……じゃぁ、連れてきて」
「はい?」
「その場にいた人を、ここに連れて来て。何で守れなかったのか聞きたい」
 この聖美の状態に、どうやら泉は戸惑っているようだ。まさか、これほど取り乱すとは考えていなかったようである。
「あ、あのですね。貴方のご家族が行方不明になった訳ではないのですが」
「……」
 聖美は、その言葉に二の句が継げなかった。
 そうこうする内に、頬を何かが伝うのを感じた。
「え、ええっ? 何故、泣くんですか」
 聖美の状態を見た明子も、やっと、起こっていることが飲み込めてきたようである。
「……泉さん、と言いましたか」
「はい。いや、こちらの方は凄いですね」
 そういった泉が視線を明子に移すと……。
「ひっ」
 明子の表情は、普段とそれほど変わりがないように見えるのだが、視線の圧力と言えば良いのか、目に力が入っているのが分かる。
「貴方は、聖美にとって、楓がどれほどの存在であるのか知らないのでしょう。たかが日本人の一人くらいにしか思っていないのでしょう。
 いいえ、違いますね。……誰であったとしても、人が行方不明になったのです。しかも、貴方が担当している実証実験で起こったのですよ。何故、平然としていられるのですか」
 泉は、明子の薫を思わせる詰め寄りに唾を飲み込んだ。だが、次の言葉を紡ぎ出せなかった……。
「……明子の言う通り。その時……誰が……何をしていたのか説明して。えぐっ、ぐすん」
 泣きながら訴える聖美に、泉は、声はおろか身動き一つできず、聖美の激情によって、周囲で作業をしている研究員達の視線も集めていた。
 どうやら、伝えるだけで終わるだろうと高をくくっていた泉のようであるが、現実には、その手際、対応の悪さが周囲に露呈する格好となってしまった。
「早く! あにしてんの! 早くしろ! 早……うわぁ〜ん」
 罵声を浴びせる聖美は、結局泣き崩れてしまったのである。聖美の中で占める楓の位置がより明確に分かったと言うことである。
 泣いているのは聖美だけではない、明子も同じである。
 明子がどれほど気丈に振る舞っていようとも、友人が事件に巻き込まれたとあっては、感情の制御など出来ようはずもない。

     *

 あぐ。はぐ。
 もしゃもしゃ。
 んぐっ。
 楓と薫が、行方不明になったと告げられてから、既に、二時間近くが経っていた。
「聖美……」
「すん……」
 これでもかと言うほどに思い切り泣いたのだ、泣き止んだとは言え、未だにすすり泣く聖美の目は、泣きはらして赤くなっていた。
 聖美と明子は、あの後、小一時間ほど講義ラボに止まっていたのだが、不意に聖美が講義ラボを出て、ここ食堂までやってくるや、遅くなった夕飯を取り始めたのである。
「ねぇ、聖美。その食べ方、消化に悪いわよ」
 はぐ。
 もしゃもしゃ。
 明子の忠告を無視したい状況なのは理解できるのだが、これではまるで、何かを忘れるかの如くに、しゃにむに、一心不乱に夕食を取っているとしか思えなかった。いや実際、聖美の中ではそうなのかもしれない。
 明子も重々承知してはいるのであろう。それでも、ここまで告げているのには理由がある。聖美が、あまりにもがむしゃらであるが故に、何かを言ってあげたいと思うからである。小言に聞こえてしまうのは、どのように声を掛けたら良いのか、困っていると言ったところであろうか。
「さ、と、み」
 何度目かの声かけで、ぱたりと暴食を中断する聖美だが、顔がぐしゃぐしゃのままであるが故に、やや上目遣いに明子を見ている。
「あ、あによ」
「あ、良かった。やっと話せるわ」
「だから、あに」
「あ……その……ね。……やけ食いで、気持ちが治まるのなら良いの。私だって、楓と薫がいなくなったことに動揺してるんだから……」
「……」
 明子の言葉に、視線を落とす聖美。
 明子の気持ちも理解している筈であったが、どうやら、一人で突っ走っていたようである。それほどまでに、楓がいなくなった事に対して動揺し、思考を内に向かせていたようである。
「う、うん。……明子もそうだったんだよね。でも……。でも」
 聖美の目から再び涙が零れていく。抑えられない気持ちというものは、確かに存在する。
 止めていた箸を再び動かして、泣きながらも一心不乱に夕食を平らげていく。終わると、トレーを持って次の食べ物を取りに行く聖美。
 明子は、黙ってそれを見守ることしか出来ないでいた。
 あぐ。はぐ。
 もしゃもしゃ。
──聖美……。貴方は強いわね。私は、食べようとも思わないもの……。
 やけ食いに没頭する聖美を余所に、明子は、食欲不振に陥っていた。喪失感を伴い気力もなくなりかけていたのだが、聖美に救われているのかもしれない。
「ん? あに笑ってんの」
「あら。そんなことはないわよ」
「じゃぁ、惚けてたんだ」
 聖美に救われた、その思いが表情に出たようである。
 聖美がいる。それが、今の明子の支えなのかもしれない。
 それに、同じ気持ちでいること、いや、聖美にとっての喪失感は計り知れないのだが、それでも、今一緒にいられる。それ故に、無理矢理に止めたりすることも出来ないでいた。
「うっ」
 呻いた聖美は、荒々しく椅子を蹴って小走りに食堂を出て行く。
「さ、聖美!」
 声は掛けたものの、明子は後を追うことが出来なかった。



     2クリックすると展開/収納を切り替えます。


 薄曇りの隙間から覗く日差しが、何処までも届いているかのように、奥の奥までが明るいのではと思える屋内。
 三々五々、人が集まり始めていた。
「おはよう、聖美。よく寝られた?」
「ふ?」
 横から朝の挨拶を掛けられた聖美は、寝ぼけ眼をしており、状況を直ぐには飲み込めないようである。
「ほ……。あっ、おはよう。
 で、明子、あんで覗き込むの」
「酷い顔よ、洗ったの?」
 聖美は、まずは頬を膨らませて怒りを表した。それにしても、相変わらずお子様ぶりが炸裂しているようである。そうは言っても、覗き込まれた挙げ句にこの仕打ちなのだ。聖美でなくても、起こりたくなろうというものである。
「ふふふ。さ、朝食にしましょ」
 聖美の返答を待たずに誘う明子。朝食を摂りに食堂にやってきたところ、ばったりと言ったところのようである。更に言えば、昨日の今日である。特に待ち合わせをした訳ではないのだろうが、そこはそれ、いつものと言う奴であろう。
「あによぉ、朝っぱらから。洗ったってばぁ……。
 ……そんなに、酷い?」
 意地を張っては見せたものの、結局気にする聖美に、明子は大きく頷きつつもクスリと笑う。
 思い切り泣いたのだ。泣きはらした目は、まだ赤く、目の下には隈ができかけていた。どうやら、昨晩はあまり眠れなかったようである。それほどまでに、楓がいなくなったことが聖美には堪えているようである。
「ちょっと行ってくる」
 明子の言葉が気になったのであろう、脱兎の如くに食堂を出て行く聖美である。仮にも二十歳である。お子様な言動や行動が目立つとはいえ、女性であると言うことなのだろう。
「しょうがないわねぇ。
 ……さて、今朝は、何にしようかしらね」
 走り去るその背中を見送りつつ、口を突いて出てしまう明子がいた。
 明子は、踵を返して朝食を選びに向かう。
 数十分後。
「はぁ〜。食べた食べた」
 ご満悦の聖美である。
「まだ、充血は引かないわね。どれだけこすったのよ」
「うっ。それ言っちゃぁ駄目だって」
 朝食が終わったばかりの二人は、食後の休息よろしくまだ席を立つ気配はない。
 ぽんぽん、とおなかでも叩かんばかりの聖美に、明子が心配をしているのだが、いらぬお世話と言ったところか。
 それでも聖美は、ややうつむき加減である。やはり気にしているのであろう。
「さ、そろそろ行くわよ」
「えぇ〜、もう。もうちょっと休もうよ」
 トレーをのけてテーブルに突っ伏して、休みたいと意思表示する聖美は、今のところは、いつもと変わりがあるようには見えない。
「ほら。食器を片付けていくわよ」
「ぶ〜」
 再度促された聖美は、渋々と明子の言葉に従いトレーを持って下げ膳場所へと向かう事となった。
 早々に実験棟に向かった二人なのだが……。
「あちぃ」
「聖美。言葉遣いが悪いわよ」
「えぇ〜、だって暑いんだもん」
「それは、そうなんだけどね。はぁ」
 実験棟に入るや否や、愚痴を漏らす始末である。聖美の本領発揮と言ったところであろう。それ故に、明子はいつもより長い溜め息をついてしまう。
「……いいわ。聖美、お昼に食堂でね」
「うん」
 元気の良い返事をする聖美。
 そうは言っても、これから当面は二人でやっていた調査作業を、各々が一人で行うことになるのだ。果たして聖美の元気はいつまで持つ事やら。
「おはようございます」
 聖美は、ラボのドアを開けて、挨拶をしながらラボに入っていく。
「はぁ……。そんじゃ、昨日の続き始めよっか……」
 溜め息なのか、気持ちを切り替えるためなのか、息を漏らした聖美は、誰にともなく呟いていた。そうは言っても、その表情からは、心の整理がついているとは言えそうにない。
 聖美が、このところ作業をしている実験台へと向かっていると……。
「……あっ。岩間君、ちょうど良いところに、ちょっと良いですか?」
「……あっ、はい。何でしょう」
 聖美と薫が行っている調査、その指示を出している研究員に声を掛けられる。
──美也じゃん。どうした?
 研究員に呼ばれるまで気が付かなかったようだが、確かに、美也と呼んだ女性がいた。
 井上美也、一七歳。
 目は大きめで、垂れても釣り目でもない。鼻は小さいが、鼻筋は見えにくいためちょこんと載ったように見える。輪郭は細面であり小さい顔立ちである。
 髪型は、くせっけで肩まであり色は黒である。
 大きめの目から来る子供っぽさがあるのは、楓や聖美に共通しているが、身長が二人より高い一七二㎝あるため外見上からは子供と判断されにくい。また、ヒップが聖美よりしっかりしていることも子供に見られないところである。
 本日の服装はと言えば、トップが白を基調として淡い黄色でグラデーションされたブラウス。ボトムは、パステルグリーンのフレアスカート。シューズは、薄めのグレーのパンプスを履いている。
 ちなみに、美也は聖美や薫と同じ学部で二つ下の学年である。
 最初の出会いは、二年ほど前であろうか、大がかりな実験、つまりは学年を超えた実験を行った時である。その後も何度か一緒になった事がある。とは言え、意気投合したのは確かであり、あまたいる薫のファンの一人でもある。
「岩間君。今日から本藤君の代わりに、井上君と一緒に作業をするように通達が来ている」
「は? ……代わりって何ですか」
 聖美は二つ返事ではなく、”代わり”という言葉が気に入らなかったようで、疑問を呈する事で返事とした。
「あっ、いや。本藤君が行方不明のため……」
「薫の代わり……」
「その通りだ」
「岩間、先輩?」
 聖美の表情を気にしたのであろうか、美也が声を掛けるが聖美には届いていないようである。
「代わりって、何ですか?」
「……い、岩間君!」
──……あっ。あれ?
「ちょ、ちょっと待ちたまえ、何故泣く」
「えっ? なんで?」
 本人ですら気が付かないうちに、涙が溢れてきていた。昨晩、散々泣いたにもかかわらず……。
 当分の間、楓と薫の行方不明の事は引き摺りそうである。
「……代わりならお断りします」
「それは出来ない相談だ」
「なんで……」
 食い下がる聖美は、まだ涙を流したままである。
 この時点で見咎めた者がいたならば、恋愛のこじれ、と勘違いしたことであろう。
「申し訳ないが、私は、決定を伝えることしか出来ないのだ」
「……代わりなんて。……代わりなんて」
「……そうですね。私は代わりじゃないですね。ううん。本藤先輩の代わりなんて出来ません、大丈夫です」
「井上君。この場は任せる」
 嗚咽を漏らす聖美に、対応困難と感じたのであろう、研究員はその場を立ち去り、更にはラボまでも出て行ってしまう。

     *

 一方、化学科で使用しているラボでも……。
「山田君。少々良いですか?」
「はい。何でしょうか」
 早々に呼び出された明子は、何かあったろうかと訝しんでいた。
──あの男子は……。確か同じ学年の……。
「朝早くに申し訳ないが、今日から藤本君の代わりに、君と組んで作業して貰う、石本君だ」
 石本と呼ばれた男性、石本正人、一九歳。
 目は大きくも小さくもないが、目の間隔が狭く眉が太めである。鼻は団子っ鼻で鼻筋は見えない。輪郭は細面の顔立ちである。
 髪型は、耳を出している程度の長さで、後頭部は刈り上げにしているがスポーツ刈りではない。色は光の加減で赤茶に見える黒である。
 身長は一七九・八㎝あるが、痩せているというよりは、やや太り気味と行った背格好である。
 本日の服装はと言えば、上は、絵柄の入ったシャツであるが、色が地味なため派手に見えていない。下は、かなり色を抜いた(履き古した?)青のデニム。シューズは、ありきたりな黒のスニーカーを履いている。
 そんな正人を目の前に、告げられた明子に動揺が走る。
「えっ? 楓の代わり……」
「石本正人だ、よろしく。同じ学年だから知らないこともないか」
 正人が手を差し出して、挨拶を交わそうとするが……。
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「何か問題でも?」
「あります。代わりとはどう言うことですか」
 行方不明の翌日に、代替要員の配属とは素早い対応。と褒められるのだろうが、明子にとっては、まだ早かったようである。
「言葉の通りだ」
「昨日の今日では、受け入れられません」
「だからこそ、何だが」
「そうなのでしょうが、直ぐに見つかる可能性も……」
 何とか、楓の居場所を残しておきたい明子なのであろうが、世の中は待ってくれないようである。
「それとだ、私は決定を伝えるだけで、異議申し立ては受け付けられないのだよ」
「……」
「伝達事項は以上だ。二人共、作業に入りたまえ」
 そう言い残して、伝達を終えた研究員はその場を離れていく。
 残った二人は、その場に立ち尽くしていた。
 正人は、出した右手の所在をなくし、引っ込めざる終えないばかりか、この状況に戸惑いを隠せない。
「……山田さん?」
「何ですか」
「どうする」
──……楓。……私も、聖美のこと言えないわね。良し!
「ごめんなさいね。もう大丈夫よ」
「それは何よりだ」
「決定では仕方がないと、言わなければいけないようね……。
 ちょっとあれだったけど。石本君、こちらこそよろしく」
「あ、あぁ。お互い、突然だしな……」
「くすっ」
「笑うな」
「ごめんね。今のは私自身によ。それじゃぁ、始めましょうか」
 どうやら、ごたごたは落ち着いたようであるが、明子も楓がいなくなったことに、戸惑いを隠せなくなっているようである。

     *

「まったく。あによ!」
 朝の明子との約束通り、お昼になると、食堂に足を向けた聖美と明子、そこに美也が加わった三人である。尚、正人は、朝の騒動が主な要因ではないと思われるが、別行動を取ると言うことでこの場にはいない。
 あえて言っておくと、女性と一緒に食事が取れない事はないのだろうが、今日の所は遠慮すると言うことなのであろう。
「聖美。決定は決定として……」
「そこじゃない!」
 昨日とは別の問題で、怒り心頭の聖美に対して、明子は、フォローし尽くせていない様子である。
「代わりってあによ。代わりって」
「あっ、そこね」
「それ以外に何があるって言うの? 明子」
 詰め寄られる明子はたじたじである。
 溜め息をつきつつも、聖美を宥めに掛かっているのだが、そこは薫と違ってなかなかに難しいようだ。
「そうですよね。自分でもそうは言ったんですが、私じゃ駄目ですよね」
 今度は美也が、代わりになり得ない現実に、意気消沈してしまったようである。薫の代わりなど、務まろう筈がないことは承知していても、そう臭わされては、自信もなくなろうというものである。
「そうそう。代わりってあによ、代わりって!」
「聖美」
「誰であろうと、代われる訳ないじゃん。ねぇ、明子」
 怒りのあまりに、周囲の事に気が回っていない聖美は、その代わりとして、代役として組むことになった美也がいることを忘れているようである。
「聖美……。美也ちゃん」
「えっ?」
 明子に促された聖美が、左隣の美也に視線を移したところ、俯いてしまっている美也がいた。
「……だぁ〜。あぁ〜。違う違う。美也が悪いんじゃない。う〜ん。嫌いとかではなく……」
「良いんです。私じゃぁ、岩間先輩の力になれないんですから……。しくしく」
 聖美は、どうして良いのか分からずにおろおろし始めた。
 自分の言い分のみを語ったが故の顛末であるのだが、こういう状況に弱い聖美であった。
「……ごめん、美也。美也は誰かの代わりじゃない、美也は美也」
「そうよね。薫の代わりなんて誰にも出来ないわけだし。美也ちゃんにも代わりがいる訳じゃない」
「そうそう」
 やはりこういう場面では、明子の方が説明が得意である。聖美は頷くだけである。もう少し、その辺りを学ぶべきであろう。
「ま、別の見方をすれば、私も聖美も、言葉を切り取って揚げ足を取ってるのと変わりないのよね」
「あんでそうなるの」
「伝える側の立場で言えば、交代要員、代わりの人、等など、あまり良い表現はない訳だしね。受け取った方の心情で、内容なんて変わってしまうもの。
 あぁ〜。私なんて、まだ薫にはほど遠いわね」
 しんみりしてしまう三人であった。
「……分かった。言葉遊びと言われちゃ、止めるしかない」
「あらま。良いの?」
「明子って、時々煽るよね」
「あらそう?」
「うん」
「うふふ。あはは」
「美也。ど、どうした?」
 聖美が、突如笑い出した美也に戸惑った。
「やっぱり、お二人とも良いです」
「はい?」
「美也ちゃん?」
「私も頑張ります」
 何が良くて、何を頑張るのか。
 呆気にとられる聖美と明子であったのだが、ひとまず、交代劇のごたごたは落着したようである。



     3クリックすると展開/収納を切り替えます。


 雲一つない晴天から日差しが降り注ぎ、屋内が隈無く照らされている。
 表では、既にそれなりの気温なのであろうが、屋内は……。
「ふぁ〜。あふ」
「聖美、おはよう」
「ふえ?」
 起き抜けなのであろうが、心地よい暖かさも手伝ってか、ぼうっとしている聖美に声を掛ける女生徒がいた。
「……ん〜。……明子?」
「あら。聖美は、まだおねむかしら?」
「ふ? うん、まだ眠い」
 明子の突っ込みに対して、聖美は、寝ぼけたままに肯定している。どうやら、本当にまだ眠いようである。
「あっ! 先輩方。おはようございます」
 席でも探していたのであろう、手に朝食を載せたトレーを持ったまま、二人を見つけてやってきた。
「美也ちゃん、おはよう」
「うん」
「岩間先輩、それって何ですか?」
「まだ、寝ぼけてるのよ」
 聖美の状態を把握していない美也に、明子は小声で教え、クスクスと笑っていた。
 今の状態であるなら、どんな問いに対してでも、肯定してしまいそうである。朝に弱い聖美であった。
 ピンポーン。
「朝っぱらから、何かしらね」
「おはようございます。九月三日金曜日です。
 学校から、緊急のお知らせです。
 行方不明事件の調査に使用しておりました、機器についての連絡です。
 現在、実証実験が行われておりますが、諸般の事情により、当面の使用を見合わせることとなりました。再開の時期は未定となっております。これにより、被験者となりました生徒の皆さんは、参加対象から外れることとなります。本日以降は、これまで通りの調査を引き続きお願いします。
 次の連絡事項です……」
「おし!」
「よかったぁ」
 食堂にいた他の生徒の間から、安堵の声が聞こえてくる。
 その言葉を耳にした明子は、複雑な思いを表情に滲ませた。
「……山田先輩? 大丈夫ですか?」
「……あら、ごめんね」
「ほっ?」
 明子の表情に、いち早く反応した美也が心配する。その傍らには、未だ寝ぼけたままの聖美が、”何?”と言った表情を浮かべていた。
「……当然こうなるわね。……でも、今更よね」
 明子は、憤慨しつつも、やりきれない気持ちでいるようである。
「……先輩」
「……分かってるわ。実証実験だから、仕方がないのかもしれないけれどね。
 ……ま、それでも、早い段階で中止にしてくれて良かったのかもしれないわ」
「そうですね。本藤先輩と藤本先輩の尊い犠牲も報われます」
「ありがとう。でもね、美也ちゃん」
「はい?」
「二人共、死んだ訳じゃないと思うわよ」
 美也が、明子の意見に賛成してくれたことは嬉しいのだが、一部に、不適切な言葉が混じっていることを指摘せずにはいられなかったようである。
「……あっ、ごめんなさい。そうですよね、犠牲は不味いですね。……う〜んと。貢献にしたいと思います。
 あっとっとっとっ」
「そ、そうね」
 明子の指摘に訂正するも力が入りすぎたようで、持っていたトレーが揺れてバランスを崩しかける。この娘もまた、聖美や楓に近い存在なのかもしれない。
「……で。未だに寝ぼけ眼の聖美。いい加減、起きたらどう?」
 薫がいなくなったことも手伝って、寝起きに時間を要するようになった聖美であるが……。
「……はっ! い、今、刺すような視線が。どっから?」
 鋭い視線には、敏感な聖美であるのだが、振り返って辺りを見回している。
 明子の放つ視線の鋭さは、まだ、薫には届いていないようである。
「さぁとぉみぃ」
「岩間先輩」
「ほっ? おはよう。で、どったの?」
 相も変わらず、ここぞと言う時には、お約束通りの言動をしてしまう聖美である。
 ある意味においては、聖美と楓の天然ぶりが、清涼剤になることもある。
「実はですねぇ……」
 聖美が寝ぼけている間の出来事を、美也がぼそぼそと語り始めた。しかし、それは、次第に明子が呆れる内容へと変貌していき、項垂れてしまう明子であった。
「美也ちゃん。ちょっと、脚色しすぎ……。
 あっ、遅かった」
「ぬ、ぬぁにぃ〜!」
 美也の説明を聞いた聖美が、大声を上げた。
 食堂にいる生徒と従業員、その全ての動作が止まり声の主に視線を注いでいる。それほどまでに大声であったと言う事である。
 聖美のその表情は、正に憤怒のそれであった。誰も、その状態を宥めることなど出来ないのではないかと思えるほどである。
 近いテーブルにいる女子生徒の表情が引きつっていることからもそれが伺えた。
「学校に抗議してくる!」
「聖美、待ちなさい!」
「止めないで!」
 ドラマのワンシーンをも彷彿とさせる言い回しである。双方共に、真剣であるが故に、臨場感が伴ってもいた。
 明子はとっさに、聖美を背後から羽交い締めにして、動きを封じようとする。
「こっちも、どうにかしないと……いけないけれどね。悪いけど美也ちゃん。いい加減……何処か……席を取ってくれる? 美也ちゃんも……トレー……持ちっぱなしだしね」
「そう言えばそうですね。立ち話しすぎました」
 そう言って、美也はそそくさと、適当な席を確保しにその場を離れていく。
 一方の聖美の怒りは、なかなかに治まりそうにない。一昨日から、楓のこととなると目の色が変わる。
「いい加減にして。学校を問い詰めても、どうにもならないでしょ」
「あんでよ。あたしは、学校に文句言いに行くだけ」
「美也ちゃんの説明は、大分脚色が入っているのよ」
 明子の必死の説得も、なかなか受け入れてもらえない様子である。それでも明子は、背後から羽交い締めにして、聖美の動きを封じようと必死である。
「お待たせしました。席は確保済み……、って、岩間先輩、まだ行く気ですか」
 席の確保に向かった美也が、二人を迎えに戻って来たのだが、相当に不味いことになっていることに気が付いたようである。
「駄目です」
「美也まで……。行かせて……。ふぅ〜」
 背後から明子に羽交い締めにされ、前からは美也に押し戻される格好の聖美は、必死の形相で前進を試み続けている。
「美也ちゃんが……尾ひれを……付けるから」
「えっ、そうでした?」
「あのねぇ……。流石、聖美の……後輩だけあるわ」
「そうですか? ありがとう……ござい……ます」
「あぁ」
 美也は薫を慕っており、薫を目指しているものとばかり思っていた明子だが、どうやら、根っこの部分は聖美や楓に近いと認識することとなった。
「……それはそうと、聖美。おなか……すいたでしょ」
「あに」
「朝食は……まだでしょ」
「ふっ?」
 流石に付き合いが長いだけあって、目先を切り替える戦法に出た明子である。
「そ、そうですね。私も、おなか……すいてますから、一緒に……食べましょう」
「そうね。それが……良いわ。行くのは……食事して……からにしましょ。そうしましょ。ね、聖美」
 美也が便乗してくれたことで、明子は、更にそこに乗っかって聖美の怒りを静めに掛かる。
 明子の視線を感じたのか、小さいが、聖美は身震いした。
「……ふむ。朝ご飯……」
「そうそう」
「そうです」
「……そっか」
 聖美の体から力が抜けていった。それを感じた二人も力を抜く。
「んじゃ、ご飯食べよ」
 一転。聖美は、二人の腕を振り解いて、配膳カウンターへと向かっていた。

〜第一章 「悲嘆」 完
縦書きで執筆しているため、漢数字を使用しておりますことご理解ください。
下記、名称をクリックすると詳細を展開します。
ふじもと かえで
藤本 楓
西暦2108年12月25日生まれ・身長/体重:165㎝/50㎏
職業:専課学校 基底学部化学科5年生

 藤本家の長女で、両親と三人暮らし。
 性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識、知能が低い訳ではない。また、人見知りもしないため、誰とでも仲良くなれる。
 食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。
ほんどう かおり
本藤 薫
西暦2108年12月25日生まれ。身長/体重:167㎝/50㎏
職業:専課学校 基底学部物理科5年生

 本藤家の長女で、両親と三人暮らし。
 性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。楓にとっては、無くてはならない親友になっている。
 食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。
いわま さとみ
岩間 聖美
西暦2108年08月13日生まれ。身長/体重:170㎝/55㎏
職業:専課学校 基底学部物理科5年生

 両親、姉と四人暮らし。
 性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶ、を表した友人の一人。
 嫌いな食べ物は、肉だが、当然、甘い食べ物には目がない。
やまだ あきこ
山田 明子
西暦2108年06月21日生まれ。身長/体重:172㎝/58㎏
職業:専課学校 基底学部化学科5年生

 両親、姉弟と五人暮らし。
 性格は、長女であるだけに、しっかり者で、世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は、弟を持つが故なのかも知れない。
 女性としては珍しく、見た目からは創造しがたいが、どっしりした印象を受ける。薫以外の姉役、と言える。やはり、楓の危うさを見ていられないと言ったところか。
 好き嫌いはない。その中で一番の好物は、和菓子。
いのうえ みや
井之上 美也
西暦2110年09月10日・身長/体重:172.0㎝/53.0㎏
職業:専課学校 基底学部物理科 3年生

 兄:正生が一人暮らしのため、両親と三人で暮らす。
 几帳面で、しっかり者、と言う性格が良く表れるため、はっきりした物言いで、周りを戸惑わせることもあるが、堅物とは言い難い所もある。
いずみ
職業:学生連絡会

 軽い喋りの男。掴み所のなさそうな、ひょうひょうとした性格。
いしもと まさと
石本 正人
西暦2108年09月16日・身長/体重:179.8㎝/65.0㎏
職業:専課学校 基底学部化学科 5年生

 祖父母、両親、姉弟の三世帯が一カ所で暮らしている。
 何事にも動じないとみられがちであるが、その実、殆どの出来事に関心を示さない。一人であることを望んでいる節もある。
かんこうえつえりあ
関甲越エリア
 関東甲信越を短縮したエリアの名称。
 東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。
 地理的中心地を起点に同心円を描いて交通ルートが確立されている。
 住居表示は従来のままであるが、使用することも可能。
あつぎびーびー
厚木BB
 厚木とは、神奈川県の中央部にある地名。
 楓達が通う学校が含まれ、関甲越エリアにある企業地区の一つ。

 中小企業から大規模企業まで様々。
あつびーびーせんかがっこう
ATSUBB専課学校
 楓と薫が通う学校で、場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。
 基底学部として、化学、物理学、自然の学科を持つ専課学校。
 建物としては、講義棟が3つ、実験棟、学生会館、学校事務棟が各々1つがある。
巨大な物体
 突如地球上空に出現した物体。
 地上の至る所から確認できたが、出現の理由はおろか、地球に対して何の影響も与えていない訳すらわからない。
えりあ
エリア
 道州制を拡張改定した考え方で、太平洋側から日本海側を一纏めにしている。
 道州制の場合は、どうしても東京を中心に考えがちで、周辺の過疎化を避けられない弱点があったため、新たに提唱された思想。
 大動脈を地理的中心線に置くことができ、分散にも適している。
きかがっこう
基課学校
 基礎課程を学ぶ学校を指す。
 学問の基礎はもちろんのこと、忘れがちになる人間性を育む基礎も含まれている。
 21世紀の小学校、中学校が九年一貫教育に置き換わった物と考えてよい。
せんかがっこう
専課学校
 専門課程を学ぶ学校を指す。
 21世紀の大学、専門学校が置き換わった物と考えてよい。
 尚、入学年齢は21世紀の高校と同じ。よって、高校以上と言うことになる。
いりょうしつ
医療室
 専課学校の保健室は概ねこの施設。
 専門の学問を学ぶ上で、怪我、火傷等々学部によって緊急で治療が必要になることが希にある。
 そのため、それなりの設備が整えられていることから、保健室ではなく医療室となった。
びーびー
BB
 ”BB”は、Business Blockの略語で、企業を集中させたブロックになる。
 理由は、昔からあった共同開発を増やす狙い、若者を早い段階で社会に参加させる狙い、などにより、遠くより近くが良いであろうと言うことで、この配置を採っている。
 結果、集まった企業は、概ね専課学校の学部が中心となった。
しーびー
CB
 "CB"とは"Commerce Block"の略で、商業ブロックに当たる。
 この商業ブロックには、大きく二つの役割がある。
 一つ目は、大商業施設、または、ブロック全体が大型のショッピング・センターとしての役割。
 その中には、移動拠点としての宿泊施設も併設されている。
 二つ目は、交通ルートを纏めるターミナルとしての役割。
 交通ルートには、大きく三つ。
 エリア中心地とを結ぶルート。
 近隣の企業ブロック、住宅ブロックとを結ぶルート。
 その三つを纏めたターミナルの役割を担っている。
えるびー
LB
 "LB"とは"Life Block"の略で、居住ブロックに当たる。
 マンション、アパートの減少により、住宅地が大分変貌している。
 空き住宅地と一戸建て地区をまとめ、2階屋、3階屋が、高層の集合住宅に置き換わっている。
 日本では窮屈な住宅空間であったが、空き住宅地の恩恵に預かり、ゆとりある住宅空間を実現している。
 居住エリアには、必ず緑地公園が設けられ、心地よい生活を営めるようになっている。
だい?じゅうたく(こうそうしゅうごうじゅうたく)
第?住宅(高層集合住宅)
 高層集合住宅のことをさすが、マンション、アパートとは趣が少々違っている。
 従来の一戸建てを改装に積み重ねた高層住宅となる。
 一階建てから三階建てまであるが、二世帯住宅はない。
 地名+施工番号+住宅で呼ばれることが多い。



ページトップ