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Soly japanese only.
書き物の部屋のイメージ オリジナルと二次創作を揃えております。拙い文章ですがよろしく(^_^)!
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「だめだ」
「うん。だめぇ~。でも、食堂のテーブルは冷たくて気持ちいい」
「ほら、起きなさい。とは言っても、流石にきつくなってきたものね」
「そうねぇ。でも、そう言っている薫も表情が優れないわよ」
「そうかしら。……でもそうね。もう一ヶ月以上経つものね、疲れが溜まってもし方がないわね」
 食堂のテーブルに突っ伏している楓や聖美は、完全にダウンしているようであるが、ここに至って、明子や薫までもが愚痴を溢すようになったのである。外出禁止令が発令されてから一月以上が経っているのだ、この四人だけではない。他の生徒もそこかしこでぐったりしていた。
「化学の調査に進展はあったのかしら?」
「へ?」
「……ないわよね、楓」
「そうだね。これと言ってないかな? だってさぁ、波長の周波数は分かってても、実際にどれかとなると、似たような波長出すのも結構あるし、相互干渉とかになると情報不足だから特定は難しいって言うか、無理だよ」
「そう」
「物理の方は?」
「んなもん、ある訳ないじゃん」
「そう言う言い方は良くないわよ聖美」
「え~。だって、喋るのも億劫だし」
「そうであっても、たとえ友達との間でも突っ慳貪な態度は良くないわね。聖美」
「は~い。楓、ごめん」
 いやに素直な聖美である。ま、それだけ疲労が溜まり当たり散らしたいのであろう。
「うん。大丈夫。……う~。食堂に来たけど、ご飯食べたくないな」
「それだけはだめよ。何でも良いから食べなさい。いいわね」
「ほ~い」
「ふふふふふ」
「明子。その不敵な笑いは何かしら?」
「え? あ、ごめん。満足した笑いのつもりだったけど、これは不味いわ」
「何に満足したのか、聞かないことにするわ」
 ピンポーン。
「ほ? あに?」
「学校からのお知らせです。先日来連絡しておりました、学生の行方不明に関する波長に関する連絡です。
 先程、学生連絡会から情報が入りました。波長を打ち消す装置の試作機に当たる装置が複数台完成したとのことです。つきましては、当校でもその装置を使用した実証実験を行います。被験者につきましては、現在登校中の生徒の中から無作為に選ばせていただきます。お昼休みの間に決定します。以上です」
「え~。やだな」
「楓、当たっちゃえ」
「む。あんてこというかな」
「二人共、そんなことを言っていると当たるわよ」
「うっそぉ~」
「うげ。寝る」
「あらまぁ。ふて寝ねしてもねぇ」
「そうね。無作為なのだから、ふて寝しても意味はないわよ」
 登校している生徒数も全校生徒に比べれば少ないと言うことだけではなく、外出禁止令による管理の徹底からコンピューターに登録済みである。よって、結果はそれほどかからず、昼食時間が終わる頃には出た。
「……化学科五年生、藤本楓。物理科五年生、本藤薫。以上八名の生徒は、一三:三〇になりましたら実験棟、実験ラボ二〇二に集合して下さい」
「がっくし」
「本当に当たったじゃん」
「聖美が当たっちゃえ何て言うから」
「そうだったけ?」
「むぅ~」
「あと二〇分くらいね」
「あぁ、何でだろ。気が重くなってきた」
「そこまで気にする必要はないと思うのだけれど」
「えぇ。だって工学部的な実験と言えば、人体に何かあるじゃん」
「それは思い込みね。椅子に座らされるとか、シリンダーに入れられるとかを想像しているのね」
「え? 違うの」
「さぁ。どうかしら? 今回の事件を考えてみれば分かると思うのだけれど」
「う~ん」
「ほうほう」
 楓は元より、聖美も考え始めたようである。
 薫の言うところの装置については、空想上でのマッドサイエンティストが用いる方法である。地球上の歴史でも文明の初期の頃には似たようなことはあったようであるが、現代においては、まずありえない。
「そうね。行方不明のニュースでは、よく帰宅途中と言っていた筈よ」
「おぉ」
「と言うことは。屋外で使う物だ」
「そう言うことになるわね」
 等とどんな装置か思いを膨らませ、巡らせる四人である。
 そうこうしている内に時間が迫り、楓と薫は実験棟に向かったのである。
「届いてます装置は二人分です。ですので交代で実施します。まずは、藤本楓さんと本藤薫さんにお願いします」
「何と。一番……」
「光栄ね」
「どこが」
「外出禁止令も出ていますので、本日は学校の敷地内の屋外で実施します」
「げっ」
「楓。言葉遣いが悪いわよ」
「え~。だって屋外って、今、何度あると思う?」
「四〇度は優に超えているでしょうね」
「そうだよ。暑いんだよ」
「そうよ。仕方がないでしょ。それが実験なんですから」
「あぁ~」
 確かに楓の言うことはもっともである。歩くだけとは言え、炎天下で遮る物がない場所では気温以上の暑さがある。結構こたえるものである。
「これ?」
「そのようね」
「襷掛けに鞄をかけるみたいだけど、機械が一杯ついてる」
「それは仕方ないでしょうね、試作機と言うことだそうだから」
「で、歩くの?」
「藤本さん、本藤さん、準備は出来ましたか?」
「はい」
「データはラボで受けますが、念のため、講義棟の裏手と木立周辺に研究員と学生を配置して監視します」
「何でですか?」
「万が一の事態のためです」
「なんか、やだな」
「万が一、ですか」
「まぁ、なにぶん試作機ですから」
「あ、そちらのことですか」
「そうです。では、始めて下さい」
 そう切り出された楓と薫は、実験棟を背にして右方向、学校棟を左に見て、講義棟の方向に歩き始める。
 敷地の外れに位置する第二講義棟の裏手から第三講義棟の裏手へとぐるりと回るコースを使うようである。裏手という理由からなのであろうが、二~三メートル幅程で、薄暗い場所であるここを歩くことになったようである。しかし、既に楓は疲れた顔をしていた。
「楓。まだ始まったばかりよ」
「え~。だって暑いじゃん」
「それは分かるけれど、一回り位しゃんとしなさい」
「は~い」

     *

「きつい」
「まだ二日だけだけれど、炎天下だものね。私も堪えたわ」
「お昼食べようよ」
「無理」
「おじやなら良いかしら」
「学食にある訳ないじゃん」
 お昼時。食堂に赴いている四人。楓は既にテーブルに突っ伏しておりダウンしている様子。一方の薫も流石にかなりバテている様子なのが表情から伺える。
「で。何か結果ってあった?」
「ないない」
「骨折り損じゃん」
「聖美。それは言わないで」
「ふ~ん」
 関心があるようなないような、微妙な返答をする聖美。お昼ご飯を頬張り始める。
「れさ。まら。ん。続くの?」
「もう。口に物が入っているとき喋らないの」
「飲み込んだじゃん。ねぇ、どうなの?」
「聞いていないわね。メンバーを入れ替えるとか、聖美になるとか」
「な、何てこと言うかな」
「やってご覧よ。すんごい、つらいよ」
 聞きたがりな聖美に、薫と楓が口を封じるため、あることないことを言い出すのであった。
「うっ。ごめん」
 流石の聖美も、この攻めに観念したようである。
 不意に楓が上体を起こして……。
「ま。午後もあるんで、何か食べておかないと。脂っこくないモノってあったけ?」
「ちょっと楓。あ、危ない。しょうがないなぁ」
「聖美。食事の途中で席を立っちゃだめでしょ」
「んなこと言ったって、楓ふらふらじゃん。おっと」
 ふらつく楓を支えに向かう聖美である。なんだかんだ言っても友達と言うことのようである。普段は口喧嘩が絶えずとも、ピンチの時は助け合える。これも友情の一つであろう。

「よし」
「あら。ずいぶん気合いが入ってるわね」
「う~ん。ま、やるからにはね」
「そうではないでしょ。学校外に出られるからじゃないのかしら?」
「な、何、言ってるかなぁ、薫は。そんなことあるは、筈……」
「あるんでしょ」
「……あい」
 午後。再び実証実験が行われるのだが、どうやら、学校外で行うようである。しかし、発令中であるにもかかわらずよく許可が出たものである。
「それはそうと。よく学校から出られるよね」
「楓。説明は聞いていなかったのかしらね」
「えっ? そだっけ?」
「あぁ。学生連絡会に許可を取って、政府が特例として許可してくれましたと言っていたでしょうに」
 目を泳がせ、焦る表情の楓と、額に手をやってしまう薫がいたのである。
 現在は、まだ学生外出禁止令の発令中である。であるからして、通常は許可されることはない。しかし、既に学生連絡会からの調査要請で例外措置が執られている訳で、今回は、学生の行方不明事件の実証実験ともなれば、政府として許可を出さざる終えない、と言ったところであろう。
「前の組みが戻ってきましたので、藤本さん。本藤さん。交代です」
「はい。二時間経ったのね」
「おし!」
 名前を呼ばれた二人は、装備する装置の準備が行われている場所に向かう。そこでは、データの回収が終わり再設定が終わったところであった。
「これをどうぞ」
「はい」
 肩から襷に装置を掛けて準備が終わる。
「では、出発して下さい。後ろにこの二人が付き添いますので、何か不具合でもあれば言って下さい」
「了解」
「分かりました」
 元気よく出発する楓と薫だが、小一時間ほども歩き続けると……。
「ゴールは、まだ?」
「あと一時間程よ」
「……もう、だめ! 疲れた。足痛い!」
「まったく。子供じゃないのよ。だだをこねない」
「え~。ぶ~」
「そうは言っても、歩き通しも疲れるわね。休憩できるか聞いてみましょう。あの。申し訳ありませんが……」
 とうとうと言うべきか、遂にと言うべきか。ただただ歩くだけであるため、楓が爆発しかけた。まぁ、行く当てもなく、歩き続けるだけと言うのは意外につらいものである。
 見かねた薫がと言ってよいのか、後ろを歩く研究員に交渉を持ちかける。喫茶店か何かで休憩を取ってよいのかと。
「良かったわね。屋外であるなら良いそうよ」
「やったぁ。じゃぁ、この辺りだと。あ、和菓子喫茶だ! よぉし、がんばるぞぉ。でも、薫ってば。脅してなかった?」
「人聞きの悪い。脅してなどいません。融通が利かないのですか、と問いつめただけのこと」
「いや。それは脅してるんじゃ」
「楓!」
「わぁ~い」
 休憩が出来ることが決まるととたんに、元気になって走り出す楓。現金な、まもなく二〇歳となろうかという女性である。
 休憩も含めて、二時間ほど鵜野森CBにて歩き回ったが、例の波長はおろか異常と思われる波長は検知されなかった。
「検出されなかったね」
「そうね。そもそもいつでもどこでも、と言うわけではないものね」
「いつまで続くのかなぁ」
「それは分からないわね」
「ふぅ」
「飽きた、等と言わないわよね?」
 その言葉に、首が痛いのではないかという程に横に振る楓。相変わらず、薫の詰め寄りに弱い楓である。
「でも。どうなるんだろうね」



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「西暦二一二八年八月三〇日、月曜日の朝です。既に、起床されている皆さんおはようございます。まだの皆さんは、この放送で、そろそろ起床して下さい。では、登校中の調査を行っておられます生徒の皆さんに、行方不明事件に関する続報をお知らせします。
 現在、実証実験が行われています装置についてです。当国内において、工学部と企業の尽力により台数を増やすことが出来たと知らせが入りました。つきましては、当校でも数台増やすことに決定しましたことを受け、更に、被験者を増員することとなりました。選定方法は前回と同じです。結果が出次第お知らせします」
「ふっ?」
「あふっ」
「二人共、いつまで寝ぼけているのかしら」
「ふえっ? だって眠いんだもん」
「今の放送は聞いてなかったようね」
「あに? あたしは、聞いたよぉ」
「では、説明して頂戴」
 朝一番。眠い目をこすりながら、朝食を摂ろうかという時間である。
 寝起きの良い者はそれほどではないかもしれないが、時間のかかる者にとっては起き抜けは結構つらい。その時間を狙ったわけではないのであろうが、重要な情報がもたらされた訳なのだが、どうも楓と聖美はまだ寝ぼけ眼のようである。
 淡々と調査だけをする毎日、聖美にとっては大分つらいようである。故に、疲労が抜けないのであろう。方や楓は、調査と言うより実証実験による肉体的疲労、歩くだけの精神的疲労もありそうである。
「え~。何だっけ? 楓……」
「おぉ。むにゃむにゃ」
「はぁ。まったく。二人には、きつい小言を言わないとだめなのかしらね」
 薫の放つ鋭い視線。その視線の刺さった二人は、条件反射のように身震いして……。
「お、起きた! もう大丈夫」
「あっ。もう目ぱっちり。ね、楓」
「うん。もちろん」
「はぁ」
「うふっ。薫も大変ね」
「明子も手伝ってくれればよいのだけれど」
「それは無理よ。私じゃ、そこまでは言えないもの」
「褒められていないような気がするわね」
「え、そんなつもりは……」
 ピンポーン。間を置かずに、構内スピーカーからチャイムが鳴ったのである。
「お知らせします。増員する被験者が決定しました」
「も、もう」
「早いわね」
「何の話?」
「やはり、聞いていなかったのね」
「え、え~と」
「詳細は、学校ページに掲載しました。朝食の時間が終わりましたら、追加となりました被験者を含めた全員は、実験棟入り口に集合して下さい」
 この対応の早さは、前日の内に用意が完了していたと見るべきであろう。そして、学校ページを覗く楓達……。
「あっ」
「あによ」
「聖美と明子の名前が載ってる」
「あんで」
「知らないよぉ」
 少々雄叫びを上げて楓を揺する聖美。よほど、選ばれることが嫌だったようである。

「何かおしゃれじゃないよね。この辺りもう少し……」
「君。装置をいじらないで下さい」
「あ、はい。すいません」
「もう、聖美、何やってるのよ」
「え~。だって、このポーチかわいくないんだもん」
「あぁ」
「工学部がって言うより、商品ではないのだから、そういったことに関心はないでしょうね」
「そうかなぁ」
 朝食の時間が終わると、被験者に選ばれた生徒が実験棟前に集まった。まずは、増員された生徒が追加した装置を使って実験に参加することになった訳だが、早々に研究員に怒られる聖美であった。
 聖美の言い分も分かるとは言え、薫の言うように商品を前提としていない、更に言えば、一過性の機器である。見た目が考慮されることはまずないであろう。
「研究員が所定の位置に着きましたので始めます。新規の参加者と参加済みの組み合わせで、学校敷地内を歩いて下さい、それではお願いします」
「ねぇ。歩くだけ?」
「そうだよ」
「ホント?」
「えっ? そうだよね」
「そうね。歩くだけよ」
「あうぅ~」
「その所為で、何度、楓が爆発しそうになったことか」
「え、えっと~。それは内密に……」
 聖美は、やっぱりという顔をしながらため息をついている。どうやら諦めたようでとぼとぼと歩き出すのであった。
「そう言えば、特に指示なかったけど、どの辺りを歩けばいいの?」
「そう言えばそうね。今日の所は装置の動作確認が主でしょうから、それこそ適当に歩けばいいのかしらね」
「え~。じゃぁ歩かないってのは」
「ないでしょうね」
「ひとまず、木立に行こう」
「そだね。涼しいし」
 会話しながら歩いているため、楓と薫を伴った聖美と明子のペアはかなりゆっくりしたペースで歩いていた。
「ま、まじかよ!」
「冗談は止めろ~!」
 おしゃべりしながら実験棟から右回り(第一講義棟から第二講義棟の裏を回るルート)で木立に向かっていた楓達。第三講義棟の裏にさしかかったところで男子生徒の大声が聞こえてきた。
「止まって下さい」
「でもぉ」
 楓が行こうとすると研究員が腕を伸ばして制止する。今し方何かが起こったためであろう、まだ、その詳細については把握していないようである。
「楓ぇ。あんで首を突っ込もうとすんの。待てっていうんだから、待つしかないの」
「そうだけどさぁ」
「はい……。はい……。分かりました。しばらくこちらは通さないと言うことですね。……申し訳ない。装置に反応が出たそうで、原因が分かるまでこちらは使えません」
「反応が出たって。波長が現れたんじゃ」
「詳細は分かっていません。装置が反応したと言うことは、そう言うことかもしれません」
「なら、救出に行かないと」
「だめです。被害を大きくできませんから」
「そんなぁ」
 楓は、何故かやきもきしていた。研究員の言うことはもっともである。だが、いち早く救出した方がよいのではとも思っているようである。
「楓。行方不明の事件自体、どう起こっているのか不明なのよ。全てを把握するための実証実験でもあるんでしょうから、見ることも重要なのよ」
「そうかもしれないけど……」
「はい……。はい……」
 再び、ヘッドセットで会話する研究員。表情が和らいでいく。
「反応が治まったそうです、全員無事とのことですから大丈夫ですよ。それから、一組だけの反応ですので、もしかしたら、誤動作の可能性もあります。ですのでデータを解析に回すそうです。それと、このような事態が発生したため、本日はこれで終了とのことです。実験棟で装置を返却して下さい。お疲れ様でした」
「……はい」
「楓。納得しなさい。今は……」
「さぁ、終わった終わった。楓、戻るよ」
「う、うん」
 納得しきれず、モヤモヤしたままの楓と、片や聖美は、相変わらず興味の無いことはきっぱりと割り切っている様子である。
 上空に鎮座する建造物と行方不明事件。この実験が上手くいくことを祈るばかりである。

     *

「むぅ~」
「楓。まだ納得していないのね」
「だってぇ」
「でも今は、順番が回ってきたのだから行くわよ」
「……うん」
 どうやら、数日前の実証実験中の出来事に対する対応に、まだ納得していない様子の楓。友人知人ではなくとも、人が消えるかもしれない。それは悲しいことである。だが一方で、あくまでも実証実験である訳なのだから、どのような事象が起きているのか把握する必要がある。そうなったときの選択は難しいものである。
「本藤さん、藤本さん。準備できました」
「分かりました」
 返事をしたのは薫。楓は、まだ思い悩んでいるようである。
「む~」
「楓。いい加減にしなさい」
 実験を開始して小一時間。珍しいことに楓が唸り続けていた。理由は語ることもないであろうが、一緒に歩く薫はたまったものではないようである。
「でもさ。見捨てるようなことして良いの?」
「時と場合によるわね」
「時と場合?」
「自発的に参加している場合、覚悟があるわけですからね。当然なにがしかの代償を伴うこともある。でも今回は、自発的に参加しているわけではないから救うという選択肢はあるのよ」
「だったら……」
 思いが口をついてしまう楓。しかしその先を言うことは出来なかった。楓も理解はしているのであろう。だが、感情として、と言ったところか。
「それでも実証実験ですものね、多少の危険は覚悟すべきなのかもしれないわね」
「そんなぁ」
 薫の話す内容は少々きつく、楓にとっては衝撃的だったようである。楓は腕組みをして考え込んでしまうのであった。
 ピーピーピー。
「うわっ。えっ~。ど、どうしよう、どうしよう。鳴ってるよぉ」
「楓。落ち着きなさい」
「だ、だって、消えちゃうんだよ」
「待ちなさい」
 薫は襷掛けしている装置の情報パネルを覗き込んでいた。
「確かに、波長の反応があるわね。この出力であれば、打ち消しが可能な筈ね」
「うぅ~。大丈夫?」
「本藤さん、藤本さん。反応を確認しました。走って場所を移りましょう」
「は、はい! おぉ~」
 一気に走り出す楓、よほど怖かったのであろう。その後を追うことになったのは、「楓! 一人で先に行ってはだめよ!」と大声を上げた薫と、更に遅れて走り始めた研究員であった。
「ぜはぜは。だ、だめぇ」
「楓。全力、疾走……したわね」
「だって、怖い……じゃん。はぁ~」
「うはぁ。足……早いですね。実験室に……籠もりっきりの、体には……きついですよ」
「あそこで、休憩に……しましょうか」
 薫はもちろんだが、付き添っていた研究員をも巻き込んだ短距離走は終わったようである。とは言え、楓も含めて全員の息が上がっているようで、運動不足この上ないと言える。
「はい。反応が出ましたので場所を移りました。え! 他でも、はい……。そうですか……。あぁ、すいません。目的地も決めずに走ってしまいましたので、場所は……」
 鵜野森CBに設置した本部との連絡をしている研究員が、小言でも言われたようである。ある意味、とばっちりと言えよう。
「はい……。そのルートで戻ります。……と言うことで、休憩した後に仮設本部に戻りますが、来たルートとは別のルートを使います」
「あの、よろしいですか?」
「どうぞ」
「別の場所でも反応が出たような会話でしたが、何かありましたか?」
「あっ、そうですね。一応伝えておきましょう。もう一組の方でも反応が出たそうですが、装置が稼働して無事だったそうです」
「よかったぁ」
「うふふ」
「あによぉ」
「安心できたかしら?」
「ぶ~」
「藤本さんは楽しい方ですね」
「あ、え、え~と……」
「何を照れているのかしら」
「フンだ」
 薫に突っ込まれて照れ隠しをする楓。それを見て研究員達も和んでいるようである。
 一〇分ほど休憩した楓達は実証実験に戻り、別のルートで仮設本部へと向かった。
「ちょっと遠いね」
「あれだけ走ったものね、戻るのにはもうちょっとかかりそうね」
「あう~」
 いつの間にかいつもの楓に戻っていた。
 ピーピーピー。
「うっそぉ。また」
「そうね。これは……。ちょっと不味いわね」
「何?」
 楓も自分の情報パネルを除くと、波長のレベルが結構高かったようである。
「え~。さっきより強いんじゃ……」
「本藤さん、藤本さん。大至急走ってその場を離れてください!」
 背後からの大声に、楓と薫は間髪入れずに走り出したのである。しかし、「ピーピーピー」と音は続いているのである。
「鳴りやまないよぉ」
「不味いわね。どれくらいの範囲があるのかしら」
「はっはっ」
 走る。
 二人はひたすら走る。
 範囲外がどこにあるのか分からないが、走るしかなかった。
 ピーピーピーピーピー。
「うぇ~。まだ鳴ってるぅ」
「まっすぐじゃだめなのかしら。次の角を左に曲がるわよ」
「うん」と楓が頷き、角を曲がって小さい路地に入る二人であった。
 ピーーーーー。
 最大の音が路地に響き渡る。
「はっはっ。苦しいですよ」
「次の角を曲がったようよ」
「了解」
 研究員もほんの数秒遅れて角を曲がる。
「えっ?」
「どこへ……」
「先を見てきます」
「よ……よろしく」
 研究員の一人が路地の先を見に走る。路地の出口で左右を見渡す研究員だが……。
「見あたらないわよ!」
「そ、そんな……。あっ、本部に連絡を……。あ、本部ですか。本藤、藤本両名が、消えました……」

~第十一章 「消失」 完

~第一部 「息吹」 完
縦書きで執筆しているため、漢数字を使用しておりますことご理解ください。
下記、名称をクリックすると詳細を展開します。
ふじもと かえで
藤本 楓
西暦2108年12月25日生まれ・身長/体重:165㎝/50㎏
職業:専課学校 基底学部化学科5年生

 藤本家の長女で、両親と三人暮らし。
 性格は、子供そのものと言える性格である。しかし、それは、喜怒哀楽全てを表現するためであり、20歳として知識、知能が低い訳ではない。また、人見知りもしないため、誰とでも仲良くなれる。
 食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。
ほんどう かおり
本藤 薫
西暦2108年12月25日生まれ。身長/体重:167㎝/50㎏
職業:専課学校 基底学部物理科5年生

 本藤家の長女で、両親と三人暮らし。
 性格は、母親のように優しく、時には厳しく、しかし、本質としては優しさを多分に持ち合わせている。楓にとっては、無くてはならない親友になっている。
 食事、食べ物の好き嫌いはないが、ケーキなどの甘い物が好物。
いわま さとみ
岩間 聖美
西暦2108年08月13日生まれ。身長/体重:170㎝/55㎏
職業:専課学校 基底学部物理科5年生

 両親、姉と四人暮らし。
 性格は、子供っぽい所もあるが、二〇歳に何とか相応しい女性だが、楓に似た所もあり、類は友を呼ぶ、を表した友人の一人。
 嫌いな食べ物は、肉だが、当然、甘い食べ物には目がない。
やまだ あきこ
山田 明子
西暦2108年06月21日生まれ。身長/体重:172㎝/58㎏
職業:専課学校 基底学部化学科5年生

 両親、姉弟と五人暮らし。
 性格は、長女であるだけに、しっかり者で、世話好き。だが、おっとりしているわけではない。その辺は、弟を持つが故なのかも知れない。
 女性としては珍しく、見た目からは創造しがたいが、どっしりした印象を受ける。薫以外の姉役、と言える。やはり、楓の危うさを見ていられないと言ったところか。
 好き嫌いはない。その中で一番の好物は、和菓子。
かんこうえつえりあ
関甲越エリア
 関東甲信越を短縮したエリアの名称。
 東西は千葉・神奈川から新潟、南北は群馬・栃木から長野・静岡の一部まであるエリア。
 地理的中心地を起点に同心円を描いて交通ルートが確立されている。
 住居表示は従来のままであるが、使用することも可能。
あつぎびーびー
厚木BB
 厚木とは、神奈川県の中央部にある地名。
 楓達が通う学校が含まれ、関甲越エリアにある企業地区の一つ。

 中小企業から大規模企業まで様々。
うのもりしーびー
鵜野森CB
 鵜野森とは、神奈川県相模原市にあり、東京都町田市との境にある地名。
 楓達が通学の途中にあり、関甲越エリアにある商業地区の一つ。

 飲食から衣料品などまでの店や複合施設、娯楽施設、宿泊施設まで揃っている。
あつびーびーせんかがっこう
ATSUBB専課学校
 楓と薫が通う学校で、場所は、関甲越エリア、神奈川、厚木にある。
 基底学部として、化学、物理学、自然の学科を持つ専課学校。
 建物としては、講義棟が3つ、実験棟、学生会館、学校事務棟が各々1つがある。
えりあ
エリア
 道州制を拡張改定した考え方で、太平洋側から日本海側を一纏めにしている。
 道州制の場合は、どうしても東京を中心に考えがちで、周辺の過疎化を避けられない弱点があったため、新たに提唱された思想。
 大動脈を地理的中心線に置くことができ、分散にも適している。
きかがっこう
基課学校
 基礎課程を学ぶ学校を指す。
 学問の基礎はもちろんのこと、忘れがちになる人間性を育む基礎も含まれている。
 21世紀の小学校、中学校が九年一貫教育に置き換わった物と考えてよい。
せんかがっこう
専課学校
 専門課程を学ぶ学校を指す。
 21世紀の大学、専門学校が置き換わった物と考えてよい。
 尚、入学年齢は21世紀の高校と同じ。よって、高校以上と言うことになる。
いりょうしつ
医療室
 専課学校の保健室は概ねこの施設。
 専門の学問を学ぶ上で、怪我、火傷等々学部によって緊急で治療が必要になることが希にある。
 そのため、それなりの設備が整えられていることから、保健室ではなく医療室となった。
びーびー
BB
 ”BB”は、Business Blockの略語で、企業を集中させたブロックになる。
 理由は、昔からあった共同開発を増やす狙い、若者を早い段階で社会に参加させる狙い、などにより、遠くより近くが良いであろうと言うことで、この配置を採っている。
 結果、集まった企業は、概ね専課学校の学部が中心となった。
しーびー
CB
 "CB"とは"Commerce Block"の略で、商業ブロックに当たる。
 この商業ブロックには、大きく二つの役割がある。
 一つ目は、大商業施設、または、ブロック全体が大型のショッピング・センターとしての役割。
 その中には、移動拠点としての宿泊施設も併設されている。
 二つ目は、交通ルートを纏めるターミナルとしての役割。
 交通ルートには、大きく三つ。
 エリア中心地とを結ぶルート。
 近隣の企業ブロック、住宅ブロックとを結ぶルート。
 その三つを纏めたターミナルの役割を担っている。
えるびー
LB
 "LB"とは"Life Block"の略で、居住ブロックに当たる。
 マンション、アパートの減少により、住宅地が大分変貌している。
 空き住宅地と一戸建て地区をまとめ、2階屋、3階屋が、高層の集合住宅に置き換わっている。
 日本では窮屈な住宅空間であったが、空き住宅地の恩恵に預かり、ゆとりある住宅空間を実現している。
 居住エリアには、必ず緑地公園が設けられ、心地よい生活を営めるようになっている。
だい?じゅうたく(こうそうしゅうごうじゅうたく)
第?住宅(高層集合住宅)
 高層集合住宅のことをさすが、マンション、アパートとは趣が少々違っている。
 従来の一戸建てを改装に積み重ねた高層住宅となる。
 一階建てから三階建てまであるが、二世帯住宅はない。
 地名+施工番号+住宅で呼ばれることが多い。



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